寿建設(福島市、森崎英五朗社長)の職員が、現場作業に従事する中で発案したアイデアが商品化された。ハツリ作業時の飛散を防止する「ハツリ・ガード」で、12日から全国で販売が始まった。多くの現場で行われているはずの日常的な創意工夫の数々が“陽の目”を見る機会は少ない。人材や研究開発費に資源を割くことが難しい地元企業ではなおさらだ。そうした中、いかにして現場の声を拾い上げ、商品化につなげたのか。具現化に至った経緯や背景を紹介する。
寿建設は、トンネル工事を中心とする地下工事や一般土木工事、トンネル工事のノウハウを生かした独自技術を持つトンネル補修工事などを手掛けており、その技術力は高い評価を得ている。
森崎社長は、かねてより技術力のさらなる深化に向けて、「私の改善提案」制度に取り組んでいた。しかし、次第に形骸化し、提案件数が年に1、2件となっていた。こうした中、「本気で改善し、現場をより良くしたい」との思いから、2014年に制度を抜本的に見直し、全現場を巡って提案を呼び掛けた。
まず改善したのがレスポンス。提案が出されると社長自らが提案者にお礼のメールを送るとともに、社内ホームページに内容を掲載し、全社で情報を共有した。また、毎週土曜日の部長会議で1つひとつの提案について議論した。
提案者には参加賞を贈ったほか、毎月、提案内容に応じて「効果的提案」と「優良賞」を選定し、評価に応じた賞金を設定するなど、モチベーションの向上に努めた。この結果、社員や協力会社の職員などから1年で152件もの提案が寄せられた。
その中で、今回の商品化に結び付く創意工夫を提案したのが、入社以来13年間、一貫して宮城県境から福島県本宮市までの約50数㎞の国道維持工事に従事している大橋秀行氏だ。
国道を守るため、除雪作業を含むあらゆる工種を手掛ける「オールマイティーな技術者」(森崎社長)で、これまでもさまざまな業務改善を行ってきたが、そのほとんどが現場内の取り組みにとどまっていた。しかし、提案制度の見直しにより、大型ブレーカーでハツリ作業をした際に飛散を防ぐという大橋氏のアイデアがスポットを浴びた。
開発のきっかけは、岡口幸一工事支援部長から“近隣のビルに飛散物で迷惑を掛けないよう対策を考えてほしい”と要請を受けたこと。大橋氏はその場で、食べ物をハエなどから守る食卓カバーが頭に浮かんだという。「外部から入れなければ内部からも出ないし、中も見える。囲って360度すべてカバーし、スペースを確保しつつ中が見えれば最高だ」。すぐに材料を集め、3日後にはイメージを形にした。
左から森崎英五朗社長、大橋秀行氏、飯豊利郎氏(仙台銘板)、岡口幸一工事支援部長 |
岡口部長が、この試作品を部長会議に提示すると、森崎社長がすぐに反応した。ただ、大型ブレーカーでの使用頻度が低いことから、よりニーズの高い小型化案が浮上し、大橋さんが改めて試作品を製作した。それを基にさらに検証・試作を重ねた上で、製品化を仙台銘板(本社・仙台市)に打診した。
窓口となった同社福島営業所の飯豊利郎氏は「現場からの声は非常に大事。問い合わせに見合う既存の商品を探すのが常だが、これまでにないものを作るのは初めてだったので、ぜひやってみたいと思った」と振り返る。
販売代理店として、当初は南東北ブロックのみで販売し、様子を見る予定だったが、社内会議で発表したところ「需要がある」「売れるだろう」と評判が高く、一気に全国展開することが決まった。
「ハツリ・ガード」は、ブレーカーにバンドで簡単に装着でき、ハツリ作業時の飛散を防止することで第三者や作業者の安全を守る。コンパクト収納が可能で持ち運びにも便利なほか、メッシュ加工のためノミ先の目視もできる。不要時には捲(まく)りクリップに掛けることもできる。「作業時の足の開き幅にまで配慮した」(大橋氏)と、現場の声に基づいた数々の創意工夫が盛り込まれている。
森崎社長は「汎用性があり、どこでもニーズがあるので最初に商品化するには良い提案だった」とする一方、「当社は技術を売る会社であり、商品化で利益を上げることより、さまざまな技術開発に積極的に取り組む会社だというイメージを持ってもらうことが最も重要だ」と話す。
実際、技術が専門的過ぎて商品化につながらないまでも、社内の業務改善で顕著な成果を上げている提案も数多くあるという。社員たちの意識をも変えた新提案制度が、現場に埋もれていたアイデアを掘り起こす強力なツールとして、同社の技術力を支えていく。
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