東日本大震災を契機に、建設企業に対する発注者の意識が変わりつつある。特に災害対応の初動期で重要な役割を担う地域の建設企業の必要性が再認識されてきている。首都直下地震など大規模地震への切迫性を抱える東京都でも防災対応力の強化は最優先の課題だ。いま都庁内には災害時の対応で密接な連携が求められる建設企業を維持・確保していくことも重要な行政課題であるという共通認識が広がりつつある。防災をキーワードに、都などの発注行政の動向を追った。
◇地域企業維持は行政課題
長引く景気低迷や公共投資の減少によって、地域の建設企業を取り巻く経営環境は依然として厳しいものがある。ある建設会社のトップは、「地場の企業は本当に苦しい。バブル期の“貯金”でなんとかしのいできたというのが実情だろう。その貯金も底をついて、着実に経営をしてきた企業だけが生き残っている」と吐露する。
一方で、震災対応では道路や河川の日常的なメンテナンスや緊急補修といった維持管理業務を担っている地域に根ざした建設企業の役割が極めて大きい。特に初動期の対応では地域や現場に精通し、機動力や機械力を有する地場企業の力は欠かすことができない。
都も東京建設業協会などを通じて建設企業と災害協定を締結。災害時には即座に出動要請できる仕組みを整えてはいる。だが、東日本大震災で明らかになったように、情報通信網が途絶する中で情報伝達手段を確保し、必要な資機材をいかに的確かつ迅速に確保できるかという課題もある。
さらに複数の公的機関との重複協定・重複要請の問題や国土交通省関東地方整備局など他の行政機関との連携体制の構築などと解決すべき課題は山積している。
こうしたことを踏まえ、都庁内部では災害時の実効性ある初動体制の構築に向けた検討が進められている。なかでも重要課題に挙がっているのが、応急復旧の先陣を切る地域の建設企業との連携強化だ。
◇都は民間との連携強化探る
局長級の技術職員などで構成する「東京都技術会議」(座長・村尾公一都技監)でも、建設企業を含む民間事業者との連携強化は検討課題の一つ。特に近年、災害協定を締結している業界団体への加入企業が大幅に減少している実態から、入札契約制度上のインセンティブ(優遇措置)の適用拡大など、建設企業の業界団体への加入を促進させる仕組みづくりも検討課題に挙がっている。
また、都建設局が4月に公表した2012年度の入札契約の取り組み方針では、プロポーザルや総合評価方式の積極的な活用を明記した。1月から施工能力審査型総合評価方式適用工事の一部に試験的に導入した、単価契約工事や緊急施工工事の実績に対する加点に続き、災害協定の締結実績に対する加点も検討。こうした入札契約制度におけるインセンティブの付与によって、災害時の初動対応や道路啓開に不可欠な地域の建設企業の維持・確保につなげていく考えだ。
地域の安全と安心を守る核となる企業を残していこうとする都のスタンスは、建設業の果たす役割が改めて発注行政の側からも認識されてきたことの証左とも言える。
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