2012/07/01

西都協会で関西建築家新人賞受賞 魚谷繁礼建築研究所 魚谷繁礼氏に聞く


『西都(せいと)教会』(撮影:中村絵)

 『西都(せいと)教会』で日本建築家協会(JIA)近畿支部(小島孜支部長)の第7回関西建築家新人賞を受賞した。「自分がかかわった仕事を評価していただいて、素直にうれしい」と感謝の意を示しつつ、「引き続き一層精進し、関西、日本、ひいては国際社会の発展に建築をつくることで貢献したい」と、志高く語る。

 西都教会は京都市内に建つキリスト教会。交通量の多い西大路通に面するが、入れ子構造にすることで中央の礼拝堂は外部の喧騒から切り離されている。また、採光窓は礼拝堂から見えない建物上部に配置され、日中はどこからともなく光が差し込む聖なる空間となっている。
 「四方八方から間接光を取り込むことで、象徴的な空間ではなく、やわらかく包み込まれるような環境をつくった。また、礼拝堂の天井を壁から切り離して浮かせることで、参拝者がいる壁に囲まれた有限な空間から上に行くに従って無限な広がりを感じられるような空間をつくり、建築主が求めた『空間における無限と有限の共存』の実現を図った」とポイントを話す。
 幼いころから積み木遊びを好み、空間づくりを楽しんでいたという。また、社会科の資料集などで国内外の歴史的建造物に目を止め、興味を抱くようになった。「建築とは空間をつくるだけでなく、歴史や文化、地域性、思想、環境、自然を込めるものだと知り、魅力を感じた。遺跡などの『強度のあるもの』に憧れた」

◇大学院修了後に事務所設立

 1996年に京大建築学科に進学。「自分の好きな建築と周りの学生の好きな建築があまりにも違い、戸惑った」という中、布野修司研究室ではインドネシアなどの海外調査に同行した。「地域性や建築と人間の関係性などを目の当たりにした。建築には、多様な民族性や気候などの要素を取り込みつつ、いま在るに相応しい“型"みたいなものがあることを知った。その場所のいまの時代に相応しい型をつくり、居住者の暮らしが豊かになるような仕事がしたいと思うようになった」と振り返る。
 大学院ではグリッド都市を研究。「グリッド都市は、人が住み込んでいくことでその仕組みが変わっていく。しかし、格子状のパターンは変わらない。グリッドが人間の生活を規制しつつ許容しているさまを明らかにしたかった」と話す。
 大学院修了後、2005年に魚谷繁礼建築研究所を設立。事務所のある京都では、住宅を中心に活用が難しい路地奥の敷地の有効活用や町家のシェアハウス化などに携わるほか、京都市景観・まちづくりセンターのモデルハウス『京都型住宅モデル』を手掛け、「現代の京都に相応しい一般住宅の型」を提案している。

京都型住宅モデル(撮影・杉野圭)
◇空間を使いこなすことが喜び

 「常に考えていることは、建築主が喜び、かつ自分独自の空間をつくること。それと同時に、社会がより良くなる建築をつくりたいと思っている」。『京都型住宅モデル』では、住宅の裏に連担した空地を設けることで景観や空気の流れに配慮するとともに、表の街路にとって代わる憩いの場を創出している。また、木造のスケルトンインフィル構造とすることで、季節ごとの生活の変化に対応するとともに、京都の林業再生にも寄与。解体した場合は建材のリユースも可能だ。「京都の住宅のモデルとして広まってくれれば、この都市での居住がより豊かなものになるのではないか」と思いを語る。
 「空間が使いこなされていくことに喜びを感じる。どんな空間にも扱いにくい個所があると思うが、長く使う中で工夫し、使いこなしてもらえる姿をみると嬉しくなる」とも。「その土地、その時代に相応しいモデルを提案し、そのまちのスタンダードをつくっていきたい」とさらなる意欲を燃やす。

 (うおや・しげのり) 2003年京大大学院修了後、05年魚谷繁礼建築研究所設立。06年に京都まちなかこだわり住宅設計コンペ、07年に臼野古民家村構想デザインコンペでともに最優秀賞を受賞。11年には大阪ガス住宅設計アワード2011で特別賞、京都デザイン賞2011で京都府知事賞を受けている。兵庫県出身、34歳。

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