写真は土砂が押し寄せた阿蘇自動車学校。
「12日以降、作業員は最前線で徹夜の復旧活動を進めている。使命感を持ち、地域のために活動するがゆえに、判断力が鈍ることもある。家族の心労も推し量ることが難しい。2次災害だけは避けなければならない」と内田知行災害対策本部長(肥後建設社代表取締役)は中止命令の理由を説明する。
九州北部豪雨は、22年前(1990年)の雨量をはるかに超え、広範囲にわたる甚大な被害をもたらした。濁流と化した川は民家を飲み込もうと土地を削り、阿蘇山の火山灰を含む大量の泥土が阿蘇市の中心を通る国道57号線に流れ込み、敷地内の施設を襲う寸前で止まっていた。流木も散在し、穏やかな日常生活が奪われた。
内田本部長は、「治山工事や砂防工事を進めてきた場所では22年前ほどの被害はなかったと思う。ただ、工事が進まなかった多くの個所で、人命も失われる甚大な被害をもたらしてしまった」と苦渋に満ちた表情を浮かべる。崩壊したインフラを目前に進める人命救助は、地域の安全・安心のためにインフラ整備を進めてきた地域建設企業にとって、これ以上ない苦しみの中での戦いだった。
市内の多くに流れ出た泥土を見ながら内田本部長は、「対策さえ実施すれば終わりではない。日々のインフラ管理がそれ以上に重要だと感じた」という。
熊本建設業協会阿蘇支部の災害対策本部 |
災害が発生すれば、自衛隊、警察、消防よりも早く最前線に立つのが建設企業だ。自治体も建設企業に頼っている。
それにもかかわらず、地域建設業を取り巻く環境は厳しい。公共事業が大幅に削減され、多くの企業が資機材、人員を削減してきた。公共工事の入札も厳しい価格競争を強いられ、赤字覚悟の受注が続いている。若年入職者もわずかで、いわば衰退産業の一つと数えられてもおかしくない状況にある。大規模災害など、いざという時に人も機材もないという状況で本当に良いのか、考えるべき時にある。
「中山間地域では建設業が基幹産業となっている。作業員を雇用し、地域内で資材を調達するなど、経済を循環させている。われわれは何も裕福な生活を送りたいわけではない。高齢者が一人で安心して生活できるような社会基盤整備を通じて、豊かな生活を送りたいだけだ」と内田本部長は吐露する。
一方、要望ばかりではない。「われわれも反省する面は多い。工事一つひとつを丁寧に地域住民に説明し、理解を得ていく必要がある。仕事を通じて地域とつながっていくためにも、会員各社の意識改革が求められる」と前を向く。
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