2015/02/11

【現場最前線】200Nコンクリを初の本格適用! フルPCa化で工程短縮実現した西富久地区再開発

全国初の住民主導による再開発として注目を集める東京都新宿区の「西富久地区第一種市街地再開発事業」。バブル期の地上げで虫食い状に放置され、崩壊の危機に直面していたまちの再生に向けて地元住民が第一歩を踏み出したのが1990年。20年以上の歳月を経て2012年5月に本体着工した。施工は特定業務代行者の戸田建設・五洋建設JVが担当、現場を指揮する芦田哲作業所長(戸田建設)は「5月末の完成に向けて、工程管理を徹底し、工事をスムーズに進めていく」と気を引き締める。

 この再開発事業では、山手線環内で最も高い約180mの超高層住宅棟を始め、中層住宅棟、屋上に戸建て風住宅の「ペントハウス」を配置した低層棟などを整備する。
 超高層住宅棟は14年8月末に上棟を迎えた。当初、上棟は同年10月中旬を予定していたが、4日サイクルの躯体構築を地上17階から3日サイクルに早め、約1カ月半の工程短縮を成し遂げた。柱と梁、床版のプレキャスト(PCa)化に加え、外周にある梁もフルPCa化し、「これにより、コンクリートを打設しなくても次のフロアのPCa部材を建て込むことが可能となった」
 躯体の構築方法にも工夫を凝らした。フロア平面を3つの工区に分割し、1工区では内側のPCa部材の建て方、その後に翌日組む鉄筋の荷揚げ、同じ時間軸で2工区はコンクリートを打ち、3工区は主に配筋を行った。3基のタワークレーンをフル稼働させながら、これらの作業を各工区で順繰りに行うことで、3日サイクルを実現した。

この繰り返し作業により、労務が均一化し、作業員も作業に慣れてくるため、「当初は20人で躯体を構築していたが、17人に減り、生産性の向上とともに、同じ作業員が作業を続けることで、品質の向上にもつながった」と胸を張る。
 労務不足が懸念されていた中、この取り組みが功を奏したほか、通常、協力会社は1職種1社だが、「エリア分けしてとびは2社の協力会社に発注するなどほとんどの職種を2社以上とし、労務を確保した」と明かす。
 超高層住宅棟には、国内で初めて本格的な現場打ち込みによる設計基準強度200ニュートン(N)の超高強度コンクリートを適用した。この超高強度コンクリートは、晴海小野田レミコンと共同で国土交通大臣の材料認定を取得済み。養生方法も認定に含まれていたため、「現場に模擬柱を設置して実験した」。200Nの強度を確保するためには、養生の際に80度の高温を72時間以上保つ必要があり、型枠にパネルヒーターや断熱材、保温材などを取り付け、さらに上部から熱が逃げないよう鉄筋も断熱材で巻いた。

「我が家」の表札
我が家作戦とは
最盛期には800人強の職人が従事した。大規模な現場の運営には、「職長会の力が不可欠」との認識の下、職人一人ひとりが自分の家と同様の意識を持って現場で作業する「我が家作戦」を職長会と連携しながら展開。現場には職長の名字を冠した「○○家」と表札を模した看板が作業エリアごとに置かれており、ごみの分別や作業後の清掃なども徹底している。
 現在の進捗率は約80%(1月19日現在)。住民の積年の想いを結実させるため、ラストスパートをかける。

◇災害に備え「総合モニタリング」導入
 西富久地区第一種市街地再開発事業では、1200戸以上の住戸を整備する。大震災などが発生した際には混乱が生じる恐れがあるため、災害状況をリアルタイムで把握できる「総合モニタリングシステム」を導入する。
 このシステムは、豊橋技術科学大学、アズビル、能美防災が共同研究したBCP・LCP対応「災害対応型建物管理システム」と、戸田建設と富士電機が開発した地震時揺れ情報や建物診断情報を発信する「ビルメディカルシステム」を統合。建物やインフラ設備にセンサーを設置し、防災センターで一括して情報収集できるほか、エレベーターと立体駐車場には自動診断・自己復旧機能を整備する。地域住民などへは、エレベーターホールやエントランスに設置したモニターで情報提供することで、混乱を防ぐ。

 ◆事業概要
▽発注者=西富久地区市街地再開発組合
▽参加組合員=野村不動産、三井不動産レジデンシャル、積水ハウス、阪急不動産
▽設計・監理=久米設計
▽施工者=戸田建設・五洋建設JV
▽構造・規模=RC造一部S造地下2階地上55階建て(超高層棟)、地下1階地上7階建て(中低層棟)総延べ13万8964㎡。
▽施工場所=東京都新宿区富久町14、15、17、18、19番地ほか。
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