2015/02/21

【復興現場最前線】木質ハイブリッド材で高い耐火・耐震実現する「森の庁舎」 福島県国見町新庁舎

震災で既存庁舎が使用不能となった福島県国見町の新庁舎建設工事が3月下旬の完成に向け、安藤ハザマ・安藤組・佐久間工業JVの施工で最盛期を迎えている。国内の庁舎で初めて木質ハイブリッド集成材が使用された新庁舎は、国土交通省の木造建築技術先導プロジェクトにも採択されている。震災と原発事故からの再生・復興のシンボル、耐火木造という公共建築の未来を先導する建物として期待される。

 福島県中通り地方の最北に位置し、宮城県に接する国見町。国道4号沿いにあった旧庁舎(同町大字藤字一丁田二)は、1978年の宮城県沖地震で被災して改築されたものだった。老朽化対策として、耐震補強工事のための実施設計を委託する直前に今回の震災が発生。躯体は柱が傾き、機械と電気の設備がほぼ壊滅したため、観月台文化センターに役場機能を移転している。復旧検討委員会からの「地盤改良を実施した上で現在地に改築することが適当」との報告を受けて、現地での再建を決めた。
 設計・監理は、ジェイアール東日本建築設計事務所・田畑建築設計事務所JVが担当。プロポーザル時に提案した「町民が集う未来のための森の庁舎」を実現するため、「木質ハイブリッド鋼材内蔵型集成材」を採用した。
 日本集成材工業協同組合が開発した木質ハイブリッド集成材は、構造材となる鋼材に集成材を耐火被覆することで、単一の材料では得られない性能を発揮。1時間耐火の大臣認定を取得している。

耐火被覆された柱と梁。品質管理のために養生テープが巻かれている
設計では、集成材の柱と梁の架構を表出させるため、外壁にガラスカーテンウォールを採用。ガラスを通して見える内装木材と外装の木ルーバー、建物周辺の樹木が一体の風景となるよう設計された。木質化により、建設時のCO2削減効果や吸湿・吸音効果のほか、癒しなどの業務効率化も期待される。
 現場を指揮する武善聡作業所長(安藤ハザマ)が「集成材の品質管理に相当な気を使っている」と語るように、現場の柱と梁には、傷や汚れがつかないよう竣工直前まで養生テープが巻かれており、クレーンで建て込む際の取り扱いにも細心の注意を払った。また、鉄骨は山形県、集成材は長野県内の工場でそれぞれ製作したため「必要な資材を工程どおりに現場に搬入するタイミングの調整にも苦労した」という。
 新庁舎の規模は、地下1階地上3階建て延べ4839㎡。国道4号の拡幅に伴い、敷地が5mほど狭くなることから、地階に駐車場を配置した。1-2階は吹き抜けのエントランスを含む執務室。3階にある議場は、イスや机を収納することで、災害時には一時避難所となり、屋上に備えた太陽光発電設備によって自立的な、災害時の防災拠点機能を高めている。
 昨年10月に本格着工したが、「基礎工事に着手する前に、先々代の庁舎の基礎などが地下に残っていたため、除去するのに1カ月半ほど時間を要した」と、思いがけない支障により工程を見直した。
 「2度目の改築ということもあり、地盤改良と耐震性の確保が強く求められた」ため、基礎にはSUPERニーディング工法を採用。径600-1000mmの高支持力節杭約80本を深さ36mまで打設することで、高い耐震性能を確保した。

入口付近。透明度の高い庁舎となる
現場付近は「半田おろし」と呼ばれる強風が吹き付ける場所にある。4m近く突き出している庇を安全に施工するため、外周の足場を二重に組むことで、高所作業時の安全対策を徹底するなど、労働災害の防止には万全の体制を築いている。
 設備と内装工事が最盛期を迎える現場には、1日当たり約120人が従事する。「町内で除染なども行われているため、作業員が集まりにくい。東北6県が中心だが、大阪などからも応援を得て対応している」と、組織力を生かしつつ、現場管理にはきめ細かく注意を払いながら作業を進める。
 防災拠点として高い耐震性を確保して生まれ変わる新庁舎は、その安全・安心性とともに、町民のよりどころとして末永く親しまれそうだ。
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