ティラノサウルスの力学特性を取り入れた新しい建築構造を提案する--。そんな思いを込めた取り組みが2014年度日本建築学会技術部門設計競技で最優秀賞を獲得した。前傾させた胴体と巨大な尾を2本の脚で支えるティラノサウルスを樹形状の柱として読み解いた提案は、新たな構造デザインとして高い評価を受けた。なぜティラノサウルスを現代に蘇らせたか。受賞した竹中工務店東京本店設計部構造部門構造9グループ課長の望月英二さんらに「Tyranno Structure」誕生の秘密を聞いた。
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水島靖典氏 |
ティラノサウルスの脚を柱に見立てるというシンプルな提案ながら、その成果は構成メンバー4人全員の苦労の結晶といえる。望月さんを除く3人は免震・制振構造や特殊架構などを担当する「先進構造エンジニアリング本部」に所属し、望月さんも普段は伝統木造建築の解析に携わる構造設計の専門家だ。約3カ月間に及ぶ研究は業務終了後のわずかな時間を縫うように進められた。特殊架構グループの水島靖典さんは、「業務時間外の限られた時間を有効に使用するため、提案に際してアピールポイントを絞って伝える必要があった」と振り返る。
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車創太氏 |
特に多くの時間を割いたのは、アイデアを抽出していくブレインストーミングだ。建築学会が求めたテーマ「自然物の優れた力学的特性を取り入れた新たな構造デザイン」に応えるため、「どんな自然物を取り上げるのか、動植物はもちろん、素粒子から宇宙に至るあらゆるスケールでアイデアを検討した」と特殊架構グループの車創太さんは語る。
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望月英二氏 |
そうしてアイデアを積み重ねて誕生したのがティラノサウルスの脚を柱に見立てる「Tyranno Structure」だった。アイデアを発案した望月さんは、「ティラノサウルスは大きさがちょうど建築スケールだ。そして何よりも、その形状が魅力的だった」と語る。また、「恐竜は自然淘汰されて現代まで生き続けることはできなかったが、その力学的な価値は変わらずに残っている」という。
最大の特徴は、反転させた脚で上部を支える「逆歩行機構」だ。反転させることで建築的な空間を生み出し、大腿骨・骨盤・靱帯を模した構造的合理性で強力な外力に対応する強さを確保した。
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鈴木庸介氏 |
「生物の体がばらばらにならないのは、靱帯で結びついているから。歩く際に関節に加わる負荷を軽減する靱帯を架構に組み込んだ」と免制振グループ課長の鈴木庸介さん。生物の力学的合理性を活用することで強さ・しなやかさを両立させたほか、架構が容易なために人工地盤としての適用や多層化といった用途も可能性として想定できると話す。
同社は今回の受賞を踏まえ、「Tyranno Structure」の解説動画を作成してインターネット上で公開した。学生や一般にも分かりやすい形で構造的な特徴や検討過程を紹介している。
望月さんは、「自分から率先して取り組むことで、どんな楽しいことにも自由に挑戦できる。構造系の学生には、構造分野にも大きな夢があるのだということを広く知ってもらいたい」と力を込めた。
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