2015/02/08

【ヘリテージマネージャー】歴史的建造物の守り手育成に注力 士会連合会、建築士会

日本各地には、地域の歴史・文化のよりどころとなる歴史的価値の高い建造物が残されており、その発掘と健全な保全・活用は、地域の文化・記憶を継承し、魅力ある地域創造に不可欠なものとなっている。
 それだけに、地域に埋もれた文化的価値のある歴史的建造物の発掘、保存活用を担う専門家「ヘリテージマネージャー(HM)」に対する期待は大きく、日本建築士会連合会と単位建築士会は、建築や街づくり・地域づくりの専門家である建築士が、その職能の1つとしてHMの役割を果たしていこうと、HMの育成事業や建造物の発掘・保存・活用の相談などを受ける窓口の設置を進めている。画像は熊本県建築士会の作成した書類。

 HMの育成は、単位建築士会が実施する講習会を受講してもらう方式を採用。そのために士会連合会は、HMの育成・活用に取り組む建築士会の行動指針と位置付ける「歴史的建造物の保全活用に係る専門家(ヘリテージマネージャー)育成・活用のためのガイドライン」を作成している。
 同ガイドラインの中では、HMの役割を「誇りのもてる地域づくりに貢献することにある」とし、そのためにHMには、(1)地域に眠る歴史的建造物を発掘し、再評価する能力が必要(2)歴史的建造物の保全・活用提案ができる能力が必要(3)地域固有の文化・風景について常に研さんし熟知していなければならない(4)伝統工法の知恵に学ぶ謙虚さと確かな技術力が必要(5)地域に入り、地域の人たちとともに汗を流し、歴史的建造物が地域の財産として地域ぐるみで大切にしていく環境づくりを行っていく能力が必要(6)建築士が本来求められている職能と歴史的建造物の保全活用といった文化財保護的な考え方との両立ができる能力が必要--とした。
 HM育成のための講習会を実施済みあるいは実施予定の建築士会数は35(建築士会以外の団体として他に2団体)で、講習修了者数は2102人になる。
 並行して、地方公共団体や建物所有者などが歴史的建造物を保全・活用するための相談を受けて技術的アドバイスを行う「相談窓口」を建築士会に設置していく計画だ。既に士会連合会に「歴史的建造物の保全・活用に関する相談窓口」が設置され、相談実績もある。
 また、歴史的価値の高い建造物を有効活用するための用途変更や増改築には、自治体が条例を制定することで建築基準法の適用除外を受けられる特例制度(建築基準法第3条第1項第3号規定)がある。2014年4月にその運用が緩和されたことに対応するかたちで、岡山県建築士会が14年9月に相談窓口も兼ねる「歴史的建造物委員会」を設置した。単位士会レベルでの設置は岡山士会が第1号で、士会連合会では他の建築士会でも同様の組織を設置するよう要請しているところだ。
 こうした取り組みの他に、建築士会連合会の主導のもと、▽HMの自己研さんや情報交換を目的に設立された地域ネットワーク団体▽HM制度に賛同する建築士会や個人--が参加し、「歴史的建造物の保全・活用に携わる専門家で構成する地域ネットワークが全国的に連携し、HMに関する情報交流、普及などを行うことにより、HM活動の発展と歴史的建造物の保全・活用の促進に資すること」を目的とする「全国ヘリテージマネージャーネットワーク協議会」も12年10月に設立されている。
 これまで、建築士会全国大会の開催に合わせて全国ヘリテージマネージャー大会が開催されており、13年10月に開かれた1回大会では、20年開催の東京オリンピックに向けて、(1)全国の重要伝統的建造物群保存地区の数を倍にし、その国家予算を10倍にしましょう(2)「地域における歴史的風致の維持及び向上に関する法律」(歴史まちづくり法)の要件を緩和して、同法の重点区域を全国各地に広げ、200地区としましょう(3)これらの運用の主体的な役割をヘリテージマネージャーが果たしてまいりましょう--とする提唱を盛り込んだ「声明」を採択している。
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