2015/02/28

【現場最前線】建築分野で国内初! 凍結土工法で免震レトロフィット 仙台高地簡裁庁舎工事

仙台高地簡裁庁舎(仙台市)で、国内初となる凍結土工法による居ながらの免震レトロフィットが大成建設の施工で進められている。建物を支える地盤は地層にばらつきがあり、薬液が均等に行き渡らないという課題があったため、土木分野で多く適用されている同工法を採用。同社東北支店の町田勲仙台高地簡裁庁舎耐震改修工事作業所長は「当初は雲をつかむような話だった」と振り返るが、発想の転換によって構築した凍土壁は期待以上の効果を発揮し、工事は順調に進捗。既に計画している13本の凍土壁のうち、11本の撤去が完了し、一部エリアでは耐圧盤の構築作業が進んでいる。

 青葉区にある仙台高地簡裁庁舎の規模は、SRC造地下1階地上8階建て塔屋1層延べ1万7809㎡。完成から36年しか経過しておらず、改修による耐震化が望まれたため、裁判所機能への影響を抑制できる免震レトロフィットを採用することにした。設計・監理は山下設計が担当している。
 建物は直接基礎で杭がない。杭なしの建物での免震レトロフィットは同社としても初のチャレンジとなる。工事は当初、一般的な工法で施工する予定だったが、支持地盤がもろい上、「木の切り株が炭素化した亜炭層などが混在し、地層にばらつきがあって薬液が均等に分散されないという課題があった」(町田所長)ことから、本社建築本部や設計本部、技術センターも交えて知恵を出し合い、国内の建築分野では適用事例がない凍結土工法の採用に至った。 
 同工法では、敷地内に設置した凍結ユニットからマイナス25-マイナス35度の冷却水を地盤に埋設した凍結管に循環させることで土を凍らせる。現場では建物基礎の下に南北方向に計13本の凍土壁を構築。基礎下を徐々に掘削して空間をつくり、仮受支柱を設置する作業を繰り返す。
 目標とする凍土壁をつくるためには「できるだけまっすぐに管を打ち進めなければならない」(同)ため、凍結管の水平ボーリングには高い精度が求められる。土は凍ると膨張して建物に影響を及ぼす可能性があるため、膨張率のコントロールにも細心の注意を払う。

広大な地下空間でマットスラブの配筋が進む
計算上は建物が最大4cm上がることが見込まれていたが、ボーリング調査のデータなどから土質によって膨張率が異なることを把握。ひとつの凍土壁に5-6本打設する凍結管それぞれの冷やし具合に変化をつけ、土質に応じて土の固さをコントロールすることで浮き上がりの最大値をわずか9mmに抑えることに成功した。建物の外周8カ所には、ターゲットを設置し、1時間ごとに変位を計測している。
 庁舎には法廷など、裁判手続きで使用する部屋があるため、裁判への影響を最小限に抑制しながら作業を進める必要がある。騒音の小さい機械を導入しているほか、裁判所との綿密な打ち合わせに基づき、その日に開かれる裁判の種類などに応じて発生が許容される騒音のレベルを3段階に分け、慎重に作業を進めている。
 現場事務所の掲示板には、裁判のスケジュールと3段階の注意書きが書き込まれたボードが設置されており、「作業員が掲示板を見て、段取りを頭に入れてから作業を進める」(同)ことが自然にルール化された。町田所長は、病院の免震レトロフィットを手掛けたこともあり、騒音対策や発注者の意向を踏まえた作業の段取りなどに、「過去の経験が生きている」という。

町田勲所長
「掘れば掘るほど想定外の土が出てくる」と当初は頭を抱えたが、作業も順調に進み、工事完了に向けて、工程は佳境を迎えつつある。「免震レトロフィットにはマニュアルがなく、同じやり方はほかに適用できない。手探りの苦労は技術者冥利に尽きる」と語る町田所長は、将来につながる“実のある苦労”に身を投じながら、会社一丸となって取り組む前人未到の挑戦で確かな手応えを感じている。
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