2015/02/10

【復興特別版】鎮魂と次世代へのメッセージ性重視 震災遺構有識者会議が報告書

震災の痕跡を残すことで、災害の記憶を後世に伝える震災遺構の取り扱いを議論してきた宮城県震災遺構有識者会議(座長・平川新宮城学院女子大学長)が報告書をまとめた。一度は町が解体を決めた『南三陸町防災対策庁舎』=写真、11年11月撮影=を「特段に高い保存価値がある」と評価するなど、沿岸7市町が候補に挙げた9施設いずれも保存する価値を認めた。委員の1人で建築家の松本純一郎氏(日本建築家協会東北支部災害復興支援委員長)は、「震災遺構の保存について、幅広い観点で客観的に判断できる材料を提示できた」と1年にわたる議論を振り返る。


委員・JIA復興支援委員長 松本純一郎氏
震災遺構をめぐっては、発災から2年8カ月が過ぎた2013年11月に、復興庁が1市町村1カ所に限り初期費用を支援すると表明。これを受けて被災自治体で議論が活発化した。
 一方、津波で陸上に打ち上げられた大型漁船『第18共徳丸』(気仙沼市)などいくつかの象徴的な遺構は既に解体されていた。検討着手の遅れも否めない上に、松本氏は「復旧・復興を急ぐ状況と被災者の生活再建や遺族の心理を考えると、残すべきものについて議論しにくい雰囲気があった」と当時を振り返る。

旧野蒜駅(15年1月撮影)
県の呼び掛けにより、沿岸15市町村のうち9市町が14施設の遺構候補を提出。並行して地元でも議論が進む中、『高大瀬遺跡の地層』(岩沼市)や『浦戸寒風沢の津波石』(塩竈市)などは地元が取り下げたため、7市町9施設が評価対象となった。
 「今回は対象外となった土木構造物や民間所有建物についても津波の破壊力を色濃く残すものについては遺構の価値があるのではないか。共有の資産として国や県など、より大きな行政単位で取り組むべき問題だ」と、今後に向け、幅広い議論の必要性を訴える。
 委員会では、「原爆ドーム」(広島市)を始め、「雲仙普賢岳土石流被災家屋保存公園」(長崎県南島原市)、「木籠集落水没家屋」(新潟県長岡市)などの現存する遺構や、模型や映像で伝える「神戸港震災メモリアルパーク」(神戸市)などを視察。「特に現物がある遺構には強烈な印象を受けた。五感を通じて時間や空間、空気感などを直接訴えてくる」と、現物のまま現地に保存する意義を強く感じるという。
 その上で「犠牲者の鎮魂とメッセージ性など次世代への継承に加えて、交流人口の拡大による観光や地域振興を含め、遺構の意義と活用方法を多方面から考える必要がある。防災対策庁舎のように、いますぐ判断できない場合は、検討する時間を引き延ばすべきであり、国や県が市町村を支援することも必要だ」と強調する。
 遺構候補の大半は、学校施設が占める。「周囲は津波に弱い木造家屋だったため、強固な学校が遺構として残ることは多い。それぞれ地域的な条件や状況は異なるが、子どもや地域の人を救った場所としての物語を伝えていくべきだ」と提案する。

RC建築物の転倒事例として価値が高いと評価された女川交番(11年7月撮影)
また、「RC建築物が転倒した事例は世界的な価値がある」と語る女川交番は、駅から遺構がある海辺の公園への軸線をまちの骨格に位置付けたことで「より象徴性を高めている」と女川町による利活用方法を高く評価する。
 このほかの震災遺構についても「人が集まってくるような場所となるよう、個別に周辺整備をする必要がある一方、遺構のある市町同士の連携も必要だ」と指摘。同県沿岸部を結ぶ貞山堀などの歴史と防災を踏まえた資産を活用する新たな観光ルートづくりを例に挙げながら、「震災の記憶の風化を防ぐには、被災地全体で取り組んでいく必要がある」との考えを示す。
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