「答えは現場にある」。三方良しの公共事業推進研究会メンバーからは、力強い声が聞こえてくる。地域建設会社が集う研究会の活動は10年の節目を迎えた。国土交通省の各地方整備局と連携しながら、精力的にカンファレンスを開催し、全国に三方良しの“輪”を広げてきた。活動の原点とは何か。そこに息づく現場改革の精神を追った。写真はトークセッション。左から岸良裕司氏、石橋良啓氏、奥平聖氏、熊谷一男氏
時計の針を2005年4月まで戻す。西日本高速道路取締役常務執行役員の奥平聖氏(元国交省北海道局長)が、北海道開発局開発監理部次長時代に実施したアンケートでは発注者の対応が遅いという現場からの苦情が数多く寄せられた。「発注者が現場に即日返答すれば、現場は止まらずに済む」。これが国交省が現在も提唱するワンデーレスポンスの始まりだった。
現場からの相談に対し、即日に解決策を提示することが難しい場合には、いつまでに返答できるかを1日で返す--。北海道開発局が05年度に15件の工事でワンデーレスポンスの試行に踏み切ったことをきっかけに、07年度から各整備局に一気に広まった。特記仕様書にワンデーレスポンスの実施が盛り込まれ、受発注者は日々のやり取りの中で意識を変えてきた。
10日に高松市内で開かれた節目の第10回カンファレンスで基調講演した奥平氏は、当時を振り返りながら「解決すべき課題は常にある。受注者も、そして発注者も、目的は何か、手段は何かをしっかりと見極める。そこがすべての出発点だ」と強調した。
実は、三方良しの公共事業推進活動はワンデーレスポンスと密接につながっている。受発注者の密な関係性により、工事現場はスムーズに進む。これまで問題が生じた際、発注者の返答があるまで現場は動けずにいた。発注者がいつまでに答えを出すかを即日に示せば、期日までに現場は別の準備ができる。段取りが組めれば現場は工期短縮を実現でき、建設物の早期完成によって結果的に地元住民も恩恵を得られる。これが住民、企業(受注者)、行政(発注者)の3者がともにメリットを享受できる三方良しの公共事業の考え方だ。
原点となった砂子組施工の阿野呂川の護岸改修工事(完成後) |
さらに起源をたどる。05年当時の北海道ではCCPM(クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント)という管理手法を現場に導入していた砂子組(北海道奈井江町)が阿野呂川の護岸改修工事を手掛けていた。CCPMを軸に発注者との密な情報共有によって大幅な工期短縮が図られた砂子組の現場では、作業を通じて「住民との触れ合い」という地域との信頼関係も得ることができた。三方良しの流れはここから始まったのだ。
そして10年が経過した第10回カンファレンスでは、新潟県と小野組(新潟県胎内市)の取り組みに始まり、一二三北路(札幌市)、寿建設(福島市)、礒部組(高知県奈半利町)、内山建設(宮崎県日向市)の三方良し事例が紹介された。「この10年で三方良しの中身は大きく変わった。今は住民に“喜んでもらうために”という流れになっている」。来賓として出席した石橋良啓四国地方整備局長は、そう実感した。
実は、07年5月に東京で開かれた第1回のパネリストの1人が当時、北海道開発局事業振興部課長の石橋氏であった。「これまでは結果として住民良しにつながっていた。今の流れは“すべては住民のために”であり、その精神は各地に広がっている」
10年前、砂子組に届いた地元住民からの電子メール |
これまでの全カンファレンスのシンポジウムで司会を務めてきた岸良祐司ゴールドラットコンサルティング日本代表は「年を追うごとに三方良しは育っている。これが各地にもっともっと広がれば“かっこいい建設業”として世間が受け入れてくれる」と強調する。10日の第10回カンファレンスでスクリーンに映し出されたのは10年前、砂子組に届いた地元住民からの1通の電子メール。「まさにこれが三方良しの原点である」
各地の三方良しを見守ってきた奥平氏は「凡字徹底に尽きる」と考えている。「現場担当者には目的に向かい、淡々とやり抜く姿勢がある。国交省のi-Construction(アイ・コンストラクション)に例えれば、まさに愛(i)のある建設業である」。三方良しの精神は建設業全体に根付くか。研究会の推進活動は、次の10年に向けて動き出した。
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