芝浦工業大学大学院で建築設計を学んだ後、レーモンド設計事務所を経て2001年、26歳にして単身渡英。観光ビザだった。バブル崩壊後の「失われた10年」と表される時代、景気低迷、出口なし、閉塞感漂うニッポンを後にした。
「閉塞感を打ち破り、広く世界を見たかった。自分の力を試してみたかった。出国先はどこでもよかったが、建築設計事務所で働き、生活をすることや、言葉の問題から知人が住んでいるイギリスを選んだ」
13年1月に日本へ本格的に帰国するまで12年間、英国の建築設計界で職を得て、住宅改修、橋や音楽堂などさまざまな設計に携わった。採用にこぎ着けるまで何百通もの応募レターを書き続け、数多くの「不採用通知」を受け取ったという。アライズ・アンド・モリソン・アーキテクツ勤務時には、欧州最大級のハブ駅キングス・クロス・セント・パンクラス地下鉄駅の設計現場監理を担当した。
ロンドン五輪関係では03年から04年にかけて、オリンピック・パラリンピック招致マスタープラン模型の制作に関わった。
「その後、レガシーマスタープラン作成プロジェクトに携わった。これは五輪以後を見据え、メインパーク、ロンドン市東部地区をどのように継承していくかを考える開発計画でした。次に、世界遺産となっている王立グリニッジ公園を敷地とする馬術・近代五輪競技会場建設の現場監理にかかわりました」
山嵜一也さん |
こうしたビジネスや生活の場で出会ったさまざまなタイプのイギリス人を通して、「成熟国に暮らす人たちの知恵」に裏付けられた彼・彼女らのタフで骨太な生き方に触れた。
「明確な目的を見据え、無駄なことはやらないという考え方が国民意識とまでなっている彼らにとってはフツーの働き方・考え方は、ガイコクジンの私から見るととても進んでいた。いずれもシンプルなものだったので、私自身の生活にも少しずつ取り入れた」
そうしたイギリス人の「働き方」を切り口にコンパクトに紹介したのが本書である。
「いまの仕事や生活に行き詰まりを感じ、閉塞感を覚えている日本人に、本書で紹介した私が心を動かされた、割り切って考え、何事も70%でよしとするイギリス人の知恵を生かして、仕事のストレスを減らし、より豊かな生活を送ってほしい」と語る。
肩の力を抜き、働くべき時は働き確実に休み、五輪を成功させた英国人の知恵は、長時間労働、過労死といった言葉が、いまだにマスメディアをにぎわす日本人の働き方に一石を投じることは、確実である。 サブタイトルの「“短く働く”のに、“なぜか成果を出せる”人たち」の逆は「“長く働く”のに、“なぜか成果の出せない”人たち」だ。どちらが良いかは議論の余地はないだろう。在英12年の著者が「心を動かされた」イギリス人の行動様式を、「働き方」「コミュニケーション」「考え方」「生き方」「創造性」といった5つのテーマからテンポよく分析、紹介。ビジネス書の扱いであるが比較文化論としても面白く読める。「明日からの休暇を万全の体調で迎えるために、きょうは風邪気味だから休む」という割り切りの良さは、間違いなくニッポンを明るくする。
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