2016/06/26

【都市を語る】共通価値、共有価値をいかにつくるか 法政大教授・北山恒氏



 人口減少社会が現実のものとなり、これまでの「成長」や「拡張」を前提としない、「定常型社会」としての新たな都市モデルが求められている現在の日本。ことし4月から法政大学教授に就いた、建築家でarchitecture WORKSHOPを主宰する北山恒氏は、東京都心部の周辺に広がる木造密集市街地に、「住環境から新しい社会をつくる」フロンティアとしての可能性を見いだす。目指すべき都市の方向性を聞いた。

architecture WORKSHOP主宰、法政大教授の北山恒氏 

 都市の中心部にハイライズ(超高層)のオフィスビルが立ち並ぶCBD(業務中心地区)があり、郊外には都市労働者を収容する専用住宅地。これを結ぶ放射状に整備された交通インフラ。「19世紀末のシカゴで開発された」この現代都市モデルは、「焼け野原となった戦後日本では容易に造ることができ、それが生産能率を上げ高度経済成長につながった。都市のメカニズムが要するに経済を支えていた」と語る。

◆“定常型”の豊かさ

 いま「日本の成長が止まって“定常型社会”に向かい、人々が生活の豊かさを求め始めた」ことで、こうした資本主義のシステムがつくる経済活動を中心とした都市構造は「われわれが思っている豊かな社会、満足できる社会を実現するには合っていないことが分かってきた」。ただ「どう変えていけばいいかが分からない。共感できるモデル、都市ビジョンを誰も持っていないのがいまの日本の問題であり、小さい解答群がいっぱい出てきているのがいまの建築状況ではないか」と見ている。
 2010年の第12回ベネチア・ビエンナーレ国際建築展では日本館コミッショナーとして「Tokyo Metabolizing」をテーマに、東京を「生成変化する」未来都市のモデルとして提示した。「都心部のハイライズ競争をやっているような経済を中心とした都市ではなく、その周辺部の住宅地こそフロンティア」だという思いがある。
 狭小な敷地に老朽化した木造住宅が高密度に集積した東京の木造密集市街地整備地域は7000haに及ぶ。防災面からも緊急に整備を要する大きな都市問題だが、一方で都心に近く生活利便性の高いエリアでもあり、「ここが一気に変わると東京が変わる。それが未来の定住型社会を支える居住都市に変われば東京はいい都市になれる」と指摘する。

目黒区の木密エリアにある「祐天寺の連結住棟」。敷地中央には開放的なボリュームを
3棟に配置、敷地内には周辺の木造密集地と連続するような複雑な屋外空間が生まれ、
人と人との新たな関係性を誘発する(撮影:阿野太一)

 自身、横浜国大大学院Y-GSAで職業人としての建築家教育に長年尽力し、プロフェッサー・アーキテクトとしても数多くのまちづくりに携わってきた。日本建築学会賞を受賞した「洗足の連結住棟」や「祐天寺の連結住棟」など都市の中でともに住まう新たな暮らし方を提案する建築をつくり続けている。

◆空き家をリサイクル
 全国的に急増する空き家問題も「住まいの質を変えなければいけないということであり、固定資産税のあり方を含め行政のルールをちょっと変えてリサイクルがしやすい方向性をうまくつくってあげるとまちのリサイクルが進んでいく」と提起する。
 近年、東京・下町ではにぎわいを見せる近隣商店街が少なくないが、「その良さをもっとスマートに次世代につなげていけるようにクリエーションする。住環境から新しい社会をつくるという、クリエーティブ・ネイバーフッド(近隣商店街)といった生活世界をつくっていければいいのではないか」とも見通す。

◆選択性高い場つくる
 目指すべき方向は「その場所に働きながら住み、文化活動ができて、カフェやレストランがあって生活をサポートする施設が身近にある選択性の高い場所」であり、さらにIT(情報技術)の進展などによる働き方の変化で自宅近くのサテライトオフィス、それも企業ではなくコミュニティーが所有するオフィスが生まれてくれば「子育てをしながら、あるいは親の介護をしながら働くこともそう大変なことではなくなる。都市のメカニズムによって、もっと自分の人生を自己決定できるような社会ができる」と思い描く。
 なおかつ「そういう街に改変する建築・建設行為は大きな経済効率をつくり、内需を拡大する。全体をマネジメントする維持費も低減する」とその経済効果も強調する。
 いま法政大学で東京都目黒区の木密地域に対して、余剰容積を活用し元金ゼロでできる共同建て替えの事業プログラムを提案、行政と一緒に住民に対してプレゼンテーションしようと取り組んでいる。あくまでも学生の仮想プロジェクトとしてだが、「できることなら本当に建て替えたい。実際に成功例ができると一気に動いていく可能性がある。そういうケースをどうつくっていくかが大事だ」と力を込める。
 「共通価値、共有価値をいかにつくるか」。その先にこそ「欧米型ではない、日本型の都市モデル」が見えてくる。
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