2016/06/08

【カナリヤ通信】女性部会トップ4氏が意見交換 「会社と社員の相互に利益と達成感をもたらすためには」

 女性の活躍が期待される中、各団体では女性部会を設立し働きやすい環境作りに向けてさまざまな取り組みを行っています。そこで今回、「会社と社員の相互に利益と達成感をもたらすためには -女性(男性)の働き方や職場環境を考える」と題して女性部会トップの4氏による座談会を開催、それぞれの取り組みや今後の展望などについて語り合っていただきました。なお、ブログでは紙面では短縮した発言も含めたロングバージョンでお届けします。

――最初に各団体の取組と成果をお願いします
土山 2014年、日建連では20万人の女性技能者を確保することを公表し、技術者・技能者を5年で倍増することを目指しています。そこで、けんせつ小町委員会では、現場環境整備マニュアルを作成しました。行動すべき優先順位からMUSTとBESTに分けています。「トイレの設置」はMUST、「できればシャワー室」はBESTになります。またハード面だけではなくセクハラ防止、妊産婦への配慮といったソフト面での改善項目も含めました。マニュアルだけでは実効性が低くなる可能性があるのでチェックリストも作りました。また、けんせつ小町のロゴマークを作って様々なPR活動をしています。

土山淳子さん・日本建設業連合会 けんせつ小町委員会技術者活躍推進専門部会長
(鹿島人事部担当部長ダイバーシティ推進グループ長)

 けんせつ小町工事チームの登録を14年8月から開始し、現在では70チームが参加しています。この中で情報交換し、何に困っているのか、悩んでいるのか、対策が定着するにはどうしたらいいかを考えます。ゼネコンなど大きいところは情報も伝わりやすいですが、小さな会社では人数自体が少ないですから、たとえば子育てとの両立の悩みでもチームだと話せる場になるのではないかというのがねらいです。
 女性活躍推進フォーラムや男性上司向けセミナー等も開催しています。業界のイメージアップも含めて働き手の「採用」と「定着」の両輪がなければなりません。

徳弘 設備業は建築のように目に見えるものではないので何をしているのかわかってもらいにくい業界です。そのなかでどうやったら入職してもらえるか、働き続けることができるか、活躍の場を広げるか、を考える場にしようと思いました。

徳弘洋子さん・建築設備技術者協会 設備女子会長
(徳弘建築設計事務所)

 今では情報を発信し、お互いに励まし合う前向きなネットワークになっています。会員は東京圏が多いですが、昨年から建築設備技術者協会の各支部での女子会設置が急増しています。親睦のための交流会をメーンにしていますが、交流会だけでは会社から出してもらいにくいという意見もあり、見学会や講習会をセットにしています。建設通信新聞で月に2回、設備女子会のメンバーのコラムを掲載しています。昨年度は女子会会員を対象にアンケートを行い、働き方に関する意見をまとめました。設備六団体から支援を受けた国土交通省事業採択により冊子として発表し、ウェブサイトも開設しました。

杉森 15年6月に設立し、まず、女性技術者が何を望み、キャリアや将来についてどう思うかという視点でアンケートを行いました。厚生労働省が行ったアンケートによると、「女性の継続就労には何が必要か」という問いに対し、圧倒的に多くの女性が「育児をしながら続けられる環境」と答えています。2番目は「勤務時間」となっています。一般から集めたアンケート結果ですけれど、うちの業界で聞いても同じ結果になると思います。

杉森純子さん・日本測量協会 測量・地理空間情報女性の技術力向上委員会
(朝日航洋空間情報事業本部技術企画部)

 ソクジョの会は、活動方針として『積極的』に「働きたい・続けたい・戻りたい」と思っている女性のサポートを挙げました。測量士・測量士補という国家資格を保有している女性は、全保有者のわずか2%ですが、アンケート回答者の女性の実に47%が持っている。しかし、そういった意識が高い女性たちが仕事を続けられない、重要な仕事を任されない、出産したら辞めなくてはいけないという状況に悩んでいます。
 いま、委員会の技術支援班では、女性がスキルを上げるために、eラーニングの機会を作ろうとしています。仕事の多くはCADの打ち込みなど「お手伝い」のジャンルなので、全体像を掴むための勉強として基礎講座を週末に開催し、その後交流会をしたいと考えています。

中嶋 私たちの業界でも、女性は会社から出にくい状況なので、委員会から正会員や賛助会員、事業所の方に自社の社員が参加できるようにアプローチしています。今年4月20日に初めて開かれた交流会には53人が参加しました。これから志を高く持っている女性を集めて、社会貢献に結びつけばいいと考えています。

中嶋佳子さん・大阪府建築士事務所協会 Wovement+実行委員
(文化シヤッター関西支店営業開発部主任)

 テーマに「建築が頼りにする女性」を掲げていますが、建築が女性のチカラを必要としているというイメージです。たとえば女性ならではの目線を生かしたユーザビリティやユニバーサルデザイン、やさしい構造物ができるといいなと。自分以外のものに尽くせる、というのが女性の美点だと思いますが、スキルがあれば実現できるものも多くなりますし、そういう人が増えたら社会が変わるのではないかと思います。

―― 各団体の「これっていいね」というものはありますか?
徳弘 eラーニングの仕組みはとてもいいですね。ただ、講師などの人的資源や予算はどうですか。

杉森 eラーニングや基礎講座は測量協会がすでに実施しているものなので、その中で女性向けに開講させていただけないか考えています。アンケートを見ると、女性はまだ業務を切り上げて講習に行ってきますというのがなかなか言いにくい状況ですので、平日よりもむしろ土日開催、あるいは昼休み等の短い時間で受講できるものはどうかと。育児期の女性社員は出張がない、残業する必要がない業務が多くなる、つまり責任ある仕事がさせてもらえない。できるのは主に独身女性です。

土山 2003年まで鹿島でも現場勤務の女性社員はゼロでした。ダムや橋を作りたいという夢を持っていた女性技術者も技術研究や設計に配属されていました。99年の雇用機会均等法の改正により、職域の拡大が必要とされましたが、実際に現場勤務できるようになるには時間がかかりました。事務系から現場配属を始めて、土木系では2005年に新入社員を配置するようになりました。建築施工系は2006年から配置、現在は80人以上が現場に入っています。
 子育てをしながら現場勤務を続けている女性技術者もいます。2002年入社の土木系社員が第1号です。子育てをしながら2年間現場勤務をしました。今では2人3人と続いています。第2号も土木系で、育児休業前に勤務していた時の現場所長がとても理解のある人でした。彼女が出産後も現場を続けたいと言ったら「私の次の現場に来るか」と言ってくれたそうです。さらに「強者と弱者がいて、子育て中の人が弱者だとすれば強者がカバーすればいい。自分もいつ介護等で弱者になるかわからないし、その時は君が強者になっているだろうから助けてくれよ」とも言ったそうです。子育てしながらの現場勤務は難しいという人もいますが、現場所長の考え方次第だと思います。やりたい人、できる人がやれるという環境作りが大事です。

――続けたい、と強く願う女性がいる一方で、結婚や出産を機にフェードアウトする人もいます
杉森 最初はみんなバリバリ働くつもりで就職します。高い倍率を勝ち抜いて来るわけですからすごく優秀な人たちなのに子どもができると「迷惑をかけるから」といって辞めてしまいます。

土山 全部やろうとしなくていいのにね。一定期間が終わればまたバリバリやる、という切り換えができればいいのですが。

杉森 測量業界の現場は泊まりが多いので、育児との両立が難しいです。そのため、それまでと同じ仕事をこなすのに無理が生じて辞めてしまい、そのまま戻れなくなってしまうというリスクがすごく大きいのです。

徳弘 鹿島さんではリタイアリターンの仕組みはあります?

土山 ないです。現在はだいぶ状況が変わっていますし、検討しなければいけないところだと考えています。

杉森 鹿島さんの女性社員はずっと続けている人ばかりですか?

土山 中途採用はいますが、基本的には新卒入社ばかりです。社内制度を整えても、利用できない雰囲気があるようでは意味がない。男性の育休も推進していますが、まだ成果は出ていません。


――辞めなければいけない状況、そう思ってしまう状況を改善するのが今ですね
土山 私が社会に出てびっくりしたのは、男女差は歴然としていて努力しても変えられないということでした。男性だと「ヤマダは…」と個人に対して言われるのに、女性だと「女性は」と一括りにされます。男性と同等に認めてもらうために我々世代の女性たちは男性の2倍も3倍も頑張ってきたわけです。でも後輩たちには、女性性を消して男性化して働くのではなく、1人の社員として普通に能力を発揮できるようになってもらいたい。そのためには、性別に関係なく、個性と能力で機会を与え評価することのできる上司が増えることが第一です。
 男性は、不思議なくらい自信がありますよね。でも、女性は本当に自信がないと「はい」と言えないので、キャリアアップなどでも背中を押してあげることが必要です。女性活躍の3K「期待し、機会を与え、厳しく育てる」の考え方が必要です。あと、「セクハラの徹底防止」も必要です。それから、女性側も自分が会社にどう貢献するかという視点を持つことが重要です。これからは、そうすることで、業界全体のイメージアップにも繋がるし男性にとっても良い環境になるはずです。入職者も増えて生産性も上がるでしょう。

徳弘 40代以上は相当な試練を乗り越えてきていますが、30代が少ないことからいろいろなことが後輩に継承されていません。20代の人たちに40代のスーパーウーマン世代のことはそのまま当てはまりにくいでしょう。
 アンケートを見ると求められているのは「働きやすさ」「やりがい」「明るい将来を描けるモデル」となっています。やはり働きやすさというのが問題で、続けていくためには時間の制約、つまり長時間労働がネックになります。会議は業務時間内にするべきです。また、子育て中は時間休を取りやすくするなど柔軟な制度と運用が必要でしょう。それから意識改革。最近ではインクルージョンという言葉が使われるように、当たり前に女性がいて、いろいろな状況を抱えている人がいて、一緒にやっていこうという意識です。

――女性から効率よく働いている人が多いので、時間ではない評価をしてほしいと聞きますが
杉森 保育園で子どもが待っているから、「あと5分しかない」となったら必死になって5分で仕事を終わらせます。だから仕事は時間内でどれだけこなすかで評価してほしいです。私たちは発表する場で女性に対し、「辞めてほしくないと思われるように頑張ろう」と呼びかけます。そのためには資格が有効で武器になりますし、人材としての客観的な指標にもなります。 




 私は会社では2人目の育休取得者でした。今では産休・育休制度が整備され、時短もフレックスもありますが、女性にとっては夫の転勤も障壁です。社内結婚だと一緒に行けるよう考慮もできますが他社だと難しい。配偶者の転勤が理由の場合は一応5年間の復職制度があるので、正社員で戻れるようになってはいますが、その5年間のうちに「今だから」と出産して、そのまま戻れなくなる人もいます。せっかく受け皿を用意しているのに使われないのは制度として盲点が潜んでいるのかもしれません。

中嶋 20代は不安がたくさんあるので私たちが払拭してあげなければいけないと思います。男性にも徹底したセクハラ防止と長時間労働をなくす意識をお願いしたい。女性らしい感性で他人と接していくと環境が整うのではないかと思います。時短も含め強者が弱者を補う仕組みだといい。そうすると男性もさらに活躍できるはずです。不公平感については、自信が付くとそんなに苦痛ではなくなりますので、そのために資格を取得し仕事で成果を出すべく頑張る。現在、当社では制度を整備し受け皿を用意して女性にうながしているところです。ただ、その先駆者として失敗できないというプレッシャーはあります。またあんまり張り切っていると周囲は萎縮してしまいます。そのあたりは男性も含めて改善が必要です。現状では“頑張りすぎずに“という実例になることも大事ですね。


――ありがとうございました



■けんせつ小町
日本建設業連合会が14年10月に公募で決定した建設業で活躍する女性の愛称。15年4月に「けんせつ小町委員会」を設立。「けんせつ小町が働きやすい現場環境整備マニュアル」を公表した。10月にはマニュアルのフォローアップとしてチェックリストを公表し、取り組みの強化を図っている。


■設備女子会
建築設備技術者協会内に12年11月に発足。資格不問、会費無料で建築設備の技術者を中心とした女性が対象。現在会員は全国で400人超となり、交流会等でネットワーク構築を目指している。国土交通省が15年度に創設した「『もっと女性が活躍できる建設業』地域協働推進事業」に「建築設備六団体協議会設備女子支援ネットワーク」が採択された。


■ソクジョの会(測量・地理空間情報 女性の技術力向上委員会)
日本測量協会内の委員会として15年6月に設立。委員会は9人で構成し、技術支援班と広報班、交流班がある。非常に女性が少ない業界であり、離職も多いことから勉強会、情報発信、意見交換に重点を置く。15年11月のG空間エキスポでは「輝け!女性技術者」と題したシンポジウムを開催。設立1周年の報告書を作成した。


■Wovement+
15年11月に大阪府建築士事務所協会第五支部で建築女子会として発足。大阪事協に属する正会員と賛助会員の女性を中心に構成。会員でなくても建築に興味があれば参加可能、会費も無料。会の名称はmovementとmen/womenをあわせ「男女の目線でどんどん+(プラス)を生み出すムーブメントを起こしていこう」という意味を込めている。

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