日本建築家協会(JIA)の関東甲信越支部は10日から12日にかけて、群馬県高崎市で第1回JIA関東甲信越支部大会「建築祭2016群馬」を開いた。大会テーマには「ここにあるタカラもの-建築まちづくりの七転び八起き-」を掲げ、関東甲信越支部に所属する建築家を始め多くの学生や地元市民が参加し建築への理解を深めた。12日には、アントニン・レーモンドが設計した群馬音楽センターでメーンプログラム「『地域のタカラを世界に繋ぐ』地域文化と建築」を開催し、これからの市民・行政・建築家の関係について議論した。写真左から連健夫氏、内藤廣氏、藤村龍至氏、山田由紀子氏
◆文化と風土が建築を変える 内藤廣氏講演会「地域の力」
メーンシンポジウムで、建築家の内藤廣氏は「地域の力」をテーマに講演し、東京の一極集中が限界を迎え「地方の風が吹く」時代が到来すると強調した。東日本大震災では国を中心とする官僚機構主導による復興の問題点を挙げ、「南海トラフ地震では東日本大震災と同じ復興はありえない。地方自治の重要性が高まっている」とした。
地方における建築家の役割については「地域ネットワークの要として、新しいビジョンをつくれるかどうかが問われている」と指摘し、建築家が無力だった東日本大震災の反省を生かした取り組みが必要になると語った。特に建築単体ではなく建築と周囲との関係に注目する重要性を指摘し、「近代社会がコミュニティーを滅ぼしたかのように言われているが、人々の間に残る文化や風土は滅ぼせない」と力説した。
その上で、菊竹清訓が設計の基本概念として示した〈か、かた、かたち〉を更新する概念として〈ち(血・地)、たち(性質)、ちから(力)〉を提示し、「ち(血・地)の縁から生じる性質が次の時代の力になり、そこから新しい建築・都市があらわれる。建築家はそのことを意識して議論していくべきだ」と主張した。
◆場が生み出す力 受けつなぐ てい談「建築保存」
講演会終了後には、連健夫支部大会学術部会長を司会に内藤氏と建築家の藤村龍至氏、群馬県出身のオペラ歌手の山田由紀子氏が建築の保存をテーマにてい談した。
冒頭、連氏から群馬音楽センターの評価について求められた藤村氏は「豪華ではないが無理のない、古き良き公共建築だと感じる」と述べ、内藤氏も「内と外がつながった建築の力を感じる」と高く評価した。一方、山田氏は「残響時間が短く、プロの演奏家としては使いづらいホールだ」と演奏の専門家としての率直な感想を述べた。ただ、群馬音楽センター建て替えの計画が立ち上がった際には多くの市民が反対運動を起こしたことを挙げ、単独の用途だけでなく「市民が自由に利用する多目的ホールとしての活用方法もあるのではないか」と問題を提起。藤村氏も「オリジナルの用途で生かすだけでなく、建築が生かされてこそ意味があるという保存の考え方もある」とした。
また内藤氏は「建築や場が生み出す力を受け継ぎ、継承することが大切だ」と強調。建築の保存には「ご老体の形態保存だけでなく、技術で蘇らせるような取り組みもある」とした上で、その一例として「音楽家と建築家の両方の垣根を壊していくこと」を挙げ、「音楽家が良い建築のためのアイデアを出し、それを建築家が取り入れる。双方が普段からクリエーティブに活動すれば、そこが世界で唯一の場所になる」とした。その上で、「(地域のタカラを世界につなげるには)海外から認められることよりも、そこが世界で唯一のナンバーワンの場所になれば良い」と語った。
◆最優秀に「子どもカンパニー」 コンペ「空き家・空き地」
コンペで西遊種に輝いた武井奈津美、小畑智之、井村晋作の3氏に表彰状が手渡された |
支部大会に合わせて、JIA関東甲信越支部では前橋市を対象地域とする「空き家・空き地コンペ」を開催した。全国から建築家や学生ら32作品の応募があり、最優秀賞には空き地を子どもの遊び場や教育拠点として整備する提案「子どもカンパニー」が選ばれ、受賞した武井奈津美、小畑智之、井村晋作の3氏には表彰状と副賞が手渡された。
審査委員長を務めた藤村氏は「これまで建築の公益性は大学が担ってきたが、今回のコンペはJIAの持つ専門性を公益性と融合させる方法を検討する社会実験となった。日本の専門家の役割を再定義するきっかけとしてのコンペの姿を示せたのではないか」と総評した。
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