2016/06/24

【パナソニック】ダムインフラメンテの強い味方に! 半自動移動する「水中点検ロボット」


 パナソニックが「ダム水中点検ロボットシステム」を発表した。湖面上のボートからロボットを投入すると、半自動的に移動しながら、ダム堤面を撮影し、傷を検出するほか画像処理による経年変化の分析、堤面損傷のマップ化も可能だ。ダムインフラにおける点検員不足と老朽化の進行という2つの課題に対し、同社は総合電機メーカーの技術力を結集させ、新たな領域に踏み出そうとしている。

 国内では、建設後50年以上経過するダムが6年後に70%、16年後には80%に達する。ダム管理者は点検結果を反映した長寿命化計画を作らなければならないが、老朽化の進行状態が未確認の部分は、まだ多く残されている。
 現在のダム点検は、ダイバーによる水中での目視点検が主流となっている。水深が40mを超えると日の光も届かず視界がなくなり、危険な窒素酔いや減圧症への注意が必要になる。人間が高水圧に順化するためには水中で長く休憩する必要性があり、ダイバーの作業時間も限られているのが現状だ。
 今は構造上問題がありそうな場所へ潜り、点検する方法がとられているが、同じ場所を再度見つけることは困難で、経時的な観察ができない。こうした理由で、ロボットを使いダムを点検したいという要望は以前から強かった。
 同社では、社内カンパニーであるAVCネットワークス社の事業開発センターが中心となり、ダム水中点検ロボットシステムの開発に取り組んだ。開発チームにはテレビ用液晶パネル事業の縮小を見越し、これから新しいことを始めなければならないという気概があった。「ソリューション事業は、技術者にとって、1つの壁を乗り越えるきっかけになる」。佐賀正樹新規事業企画部新規事業マネジメント課主幹はそう話す。開発には各分野の技術者が集結した。

ボートから投入後は乗船員が遠隔操作するが、ロボット自体がダムの壁面
から1mの距離を自立的に制御しながら姿勢を保って進む

 水中点検ロボットの試作機は、ダムの壁面を照らすLED照明とボート上に映像を送るカメラ記録用の4Kカメラ、壁面との距離を測るソナーで構成する。ボートから湖面に投入後は乗船員が遠隔操作するが、ロボット自体がダムの壁面から1mの距離を自律的に制御しながら姿勢を保って進む。ボートからダムの目地に沿ってロボットを秒速30cmで動かすと、映像が逐一転送され、乗船員が目視で状況を確認する。採集した映像は俯瞰図とひも付けて表示し、画像処理で傷のサイズ別に検出できる。潮流のある場所には適さないので、使用場所はほぼダムに限定する。
 実地試験は2014年に始まった。国土交通省の次世代社会インフラ用ロボット技術・ロボットシステムの現場検証と評価事業に応募し、神奈川県の宮ヶ瀬ダム、京都府の天ヶ瀬ダム、広島県の弥栄ダムで性能を確認してきた。
 ダム壁面のデータを採取する際には均一に広範囲を照らし出す必要があったことから、照明には車のヘッドライトで光の発散を防ぐ設計技術を応用した。ソナーは自動車用の距離計測技術が使われ、水中の泥や細かい粒子で曇った画像の鮮明化には、高速道路の監視カメラで降雪を除去する処理を利用した。ほかにもボディー外郭の衝撃緩衝部分には「レッツノート」などのタフノートPCの開発者が参加した。「これほど多くの技術を結集した製品はこれまでなかった」と佐賀主幹は話す。

水中の泥や粒子で曇った映像は高速道路で降雪を除去する画像処理により
鮮明化される

 同社では、ロボットが採集した撮影映像や位置情報を統合管理し、分析作業を支援するシステムも提供するほか、必要人員を減らすためのロボット昇降機の開発も進めている。操作の練習用に、飛行機パイロットのフライトシミュレーターのような操縦訓練用の機器も開発した。点検ロボットの操作ハンドルを動かすと、水中から送られてきたかのようなダム壁面の3次元映像がモニターに表示される。
 今後は人工知能の搭載も視野に置く。要所はまだ人間が確認する必要があるが、将来的には半オートメーションでの点検が実現する可能性もある。
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