2015/08/08

【復興現場最前線】あらゆる先端技術で“急速施工” 三陸沿岸道路で最長の新鍬台トンネル工事

吉浜インターチェンジ(IC)から釜石ジャンクション(JCT)間の14㎞を結ぶ吉浜釜石道路の区間は、交通の難所で構造物が多いこともあり、大規模工事が集中している。三陸沿岸道路で最長のトンネルとなる新鍬台トンネル工事もその1つだ。施工を担当しているのは前田建設工業(畑宏幸所長)。写真は切羽で進む支保工の建て込み作業。

 同トンネルは、岩手県大船渡市三陸町吉浜字扇洞を起点に釜石市唐丹町字上荒川に至る長大山岳トンネル。掘削延長は本坑3330m、避難坑が3362m。掘削はこの3月から起点側を先行して本格的にスタート。4月からは終点側でも始まり、現在両押しで掘り進めている。
 特筆すべきは、急速施工への取り組みだ。穿孔速度を速めるための3ブームジャンボを2台配置、発破退避時間の短縮と換気効率の向上を目的とするマルチバルーンも配備した。さらに、発破では導火管付雷管とANFO爆薬を併用して威力を高めているほか、吹付機の2台配備によるコンクリート吹付速度の向上、大型ずり出し機械の投入、残土運搬速度をアップさせるための積込機械の2セット配備など、機械の増設と能力アップの具体例を挙げれば枚挙にいとまがないほどだ。
 訪れた現場では、支保工の建て込み作業が行われていた。起点側坑口から入り、多少ぬかるむ坑内を切羽に向かって歩く途中、脇のシートが目に入る。マルチバルーンだ。作業員の動きにまで効率化を追求する姿勢に改めて感心する。坑口から出てやや先には、通常の3倍の30tを積載できる重ダンプが停車中。滅多に見られない巨大ダンプの存在感は遠目からも際立つ。
 さらに、PSワイヤーライン工法や穿孔探査法による切羽前方調査、事前に地質変化面の広がりや位置を把握できる反射法切羽前方探査(TSP)など、前方地質探査技術を駆使した適正な支保パターンの選定も、効率施工を支える強力なツールとなる。
 多くの創意工夫を駆使しながら掘削作業は順調に推移。進捗状況は、本坑が250m、避難坑は62m(ともに7月7日現在)となった。16年8月末の貫通、17年3月の完成を目指す。

橋脚のコンクリート打設が進む新白木沢橋
施工しているのはトンネルだけではない。起点側坑口付近の新白木沢橋(長さ250m、幅18.8m)の下部工も担っている。昨年5月の契約後、樹木の伐採や造成などを行い、ことし5月から床掘りを開始。現在は、3つの橋脚部すべてでフーチングの施工が終わり、柱部分のコンクリート打設を展開している。
 上部工は宮地エンジニアリングが担当しており、現在は桁を製作中。クレーンベント工法により、16年7月から桁の架設工事に着手する予定だ。

公共プラントでは高品質な生コンを現場に供給し続けている
もう一つの大きな特徴が公共生コンプラントの設置だ。資材不足に対応し、同工事専用で、現場環境や各種試験の結果を踏まえ、耐久性の高いコンクリートを1日当たり約500t製造。トータルの製造量は約5万2500m3を見込んでいる。
 多工種にわたるあらゆる作業をよどみなく、笑顔で解説する畑所長の姿には、豊富な経験と最先端の技術力を持って大工事に立ち向かう“土木屋”としての自信と矜持が垣間見える。
 「無事故・無災害はもちろん、完成後に修繕費が少なく済むよう、高品質につくり込みたい」(畑所長)。伝統行事への参加や清掃活動、見学会の開催など、積極的なCSR(企業の社会的責任)活動を通して交流を深めた地域の住民や子どもたちのため、今後も全力で工事に取り組む考えだ。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【現場最前線】83tを11分で一括架設完了! 鉄建の東北本線安達駅東西自由通路工事 鉄建は19日未明、福島県二本松市にある東北本線の安達駅で東西自由通路の桁一括架設を実施した。台風11号の影響で時折り雨がぱらつく中、国内に数台しかない1200t吊りクレーンを使った大仕事は、予定していた28分のタイムスケジュールを大幅に下回る11分で無事完了した。多数の観衆が見守る中、始発電車通過までのわずかな時間で高精度に作業を完遂した同社の澤野正安達駅作業所長は「風もなく、予定より早く設置できて良かった。事前の練習やシミュレーションで課… Read More
  • 【現場最前線】80mの“国内最長級”を張り出し架設! 北海道横断自動車道・第1ポンケトナイ川橋上部工事 北海道東北部に位置する訓子府町で、国内最長級の張り出し長を誇る「北海道横断自動車道訓子府町第1ポンケトナイ川橋上部工事」が大成建設の施工で進められている。吉田朋広作業所長は国内外で多くの実績を持つ橋づくりのエキスパートだが、長さ80mの張り出し架設はわずかな重みでもバランスが崩れるため難易度が高く、「上げ越しの繊細なコントロールが求められる」と慎重に作業を進める。雪荷重による構造変形への影響、長距離コンクリート圧送などの難題を高精度な施工管… Read More
  • 【インタビュー】土木技術者のあり方とは? NPO活動・担い手問題を木村 亮氏に聞く 世界の貧困を土木技術を使って無くすことを目的に設立したNPO法人道普請人。その事業予算を8年間で50倍まで拡大させた京大大学院の木村亮教授は、大学教官であり土木工学研究者という顔と、NPO法人理事長として土木を起点に貧困撲滅に取り組む社会起業家という2つの顔を持つ。異色の存在である木村教授は、建設業界でも広がるNPO活動や、土木技術者の役割についてどう考えているのか。 --NPO活動について  「建設会社OBの方たちがNPO活動を行うケ… Read More
  • 【道路通報】道路管理者の「救世主」に!? アーバングラフィックの「パッ!撮るん。」 相模原市中央区に本社を置くアーバングラフィックは、圧倒的なコストパフォーマンスを誇る道路通報アプリケーション「パッ!撮るん。」を開発した。相模原市との協働事業で生まれたもので、2015年から同市で運用を開始した。類似技術と比較し、コストの優位性だけでなく、使用・管理者への使い勝手に配慮した仕組みを実現した。管理者に合わせたバージョンアップも可能で、予算、人員に限りのある各道路管理者の「救世主アプリ」となる可能性を秘めている。  新アプリは、… Read More
  • 【復興現場最前線】唐桑高田道路で進む気仙トンネル、340号函渠工、新気仙大橋工事 唐桑高田道路は、宮城県気仙沼市唐桑町舘の唐桑北インターチェンジ(IC)から岩手県陸前高田市竹駒町相川の陸前高田ICを結ぶ長さ10㎞の路線だ。県境をまたいで宮城県内区間が2㎞、岩手県内区間は8㎞。現在は用地取得とともに橋梁、トンネル、改良の各工事が並行して進められている。写真は順調に掘削が進む気仙トンネル。 ◆気仙トンネル 施工=鉄建 昼夜作業で掘削、15年内貫通 その主要構造物の1つとして、陸前高田市気仙町字荒川沢~同市矢作町大嶋部間に築造… Read More

0 コメント :

コメントを投稿