飛島建設の新築工事として初めて「レンズダンパー」=写真=を採用するホテルの建設工事が鹿児島市内で進んでいる。土地活用方法から同社の「建築事業本部建設コンシェルジュオフィス」が顧客のニーズを聞き、実際のプロジェクトとして具体化してきた。いまも顧客の思いを“形”にするため、現場での試行錯誤が続いている。
鹿児島市の繁華街・天文館から500mほどの高見馬場交差点の一角で進んでいるのが「(仮称)鹿児島高見馬場ホテル新築工事」だ。地元の竹添不動産(竹添寛社長)のホテル事業会社「鹿児島アークシティ」が発注者で、設計はクリエイト・プランニングが担当している。S造13階建て延べ6368㎡のホテル(165室)で、「グランセレッソ鹿児島」として2017年4月26日にグランドオープンする。
もともとは、竹添不動産から同地の土地活用について飛島建設が相談を受けたのが始まりだった。コンシェルジュオフィスが、立地や顧客ニーズなどを考慮してホテルの建設を提案した。当時はまだインバウンド需要も現在ほどは高まっていない時期だったが、粘り強く交渉して理解を得た。
完成イメージ |
高級ホテルと安価なホテルの両極端しかない点に目を付け、「ワンランク上」の中・高級ホテルをコンセプトとした。客室を15-50㎡の広めに設定するとともに、安全・安心で差別化を図るため、飛島建設と鉄建、日本鋳造が開発した「レンズダンパー」を採用。各階に2カ所ずつ設置する。レンズ型のパネルによって地震時の抵抗力を吸収する構造で、斜めブレースなどと比べて開口部をさえぎらず、短工期・ローコストな点が特徴で、阪神・淡路大震災クラスの地震でも揺れを最大で13%抑えられる。通常の設計でも十分な耐力を有していたものの、「付加価値」として同工法の採用を決めた。さらに耐震性を高められる工法などもあるものの、「14カ月という通常に比べて短い工期とコストを勘案し、この方法がベスト」(左川雄人建築事業本部建設コンシェルジュオフィス課長)と判断した。その後、熊本地震が発生し、繰り返しの揺れを低減できる同工法の必要性への理解がより深まった。
停電時も電力を供給できるガスコージェネレーションシステムや地下水利用なども設ける。さらに「ワンランク上」を目指すため、ロビーやフィットネス室などには、健康仕様の内装として同社が展開する「M+(エムプラス)」も採用する。化学物質の仕様を抑え、耐火性能や調湿効果もあり、省エネルギーにも貢献できる。
現在は、内部の耐火被覆、内装工事を順次、展開している。内装やデザイン、客室配置などでいまも顧客の要望に応じて仕様を変更する日々が続いているが、舛岡耕太郎九州支店高見馬場ホテル作業所長の顔に焦りの色は見えない。「より良い建物を引き渡せるようにしたい。工程が厳しいが、事故が起きると工程もずれる。竹添不動産の新規事業であるホテル事業に傷を付けないよう最後まで無事故で終えたい」と、顧客の思いが形になる日まで力を尽くす考えだ。
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