2014/12/30

【記者座談会】2014年を振り返る(その1) 行政・業界団体とゼネコン

東日本大震災からの復興の取り組みが加速する中、2014年は、補正予算と当初予算をセットにした「15カ月予算」による早期前倒し発注によって、年初から上期にかけ公共事業は全国各地で拡大した。ただ建設市場をけん引した公共事業も14年下期から前年同月比もしくは前年同期比で減少に転じ始めた。一方、建設市場の先行き指標の1つである、手持ち工事高は官公需・民需いずれも積み増しており、建設業界に悲観論はない。人手不足が深刻化し、将来にわたっての担い手確保と育成が大きな焦点となったこの1年間を、担当記者による座談会で振り返る。写真は日建連の「なでしこ工事チーム」登録第1号となった東京外環道田尻工事現場で活躍する「チームなでしこ外環田尻」のメンバー。

■行政・業界団体/品確法担保が最大テーマ
A 建設業界をめぐることしの話題は何と言っても公共工事品質確保促進法(品確法)、入札契約適正化法、建設業法の改正、いわゆる「担い手3法」だろう。
B 将来を含めた公共工事の品質確保のため、建設業の中長期的な担い手の育成・確保が発注者の責務と明記された画期的な法律だ。業界団体と国土交通省との意見交換では常に、いかに品確法を実効性あるものにするかが最大のテーマで、発注関係事務の共通ルールとなる運用指針の作成に注目が集まった。一方で、受注者も担い手確保の責務を負っていることを忘れてはならず、誠実な企業行動が改めて求められている。
C 担い手確保という意味では、国土交通省の当初予算の公共事業関係費が、わずかだが13年ぶりに実質増加に転じたことは、企業が若者を確保しようと判断するために、大きなことだった。
D 担い手確保のつながりで、女性の活躍促進や外国人技能労働者の受け入れ拡大も話題になった。9月に国土交通省と日建連、全建など建設業5団体が『もっと女性が活躍できる建設業行動計画』を策定し、建設業で働く女性の愛称を「けんせつ小町」に決めた日建連の取り組みも話題を集めた。息の長い活動にできるかが課題だ。
B 外国人技能労働者の受け入れ拡大は賛否両論だが、外国人技能実習制度の期間上限を3年から5年に延長することが決まった。この話題はまだ来年も尾を引きそうだ。
D インフラの老朽化対策でもターニングポイントとなった。7月1日からすべての道路管理者に法令に基づく橋梁とトンネルの定期点検が義務付けられた。自治体が対応を迫られるだけでなく、業界も本格的な維持管理・更新時代の幕開けに対応できる体制の整備が急務となる。道路整備特別措置法の改正で高速利用料金の徴収期間が15年延長され、高速道路の維持管理・更新の「財源」が確保されたことは今後の推進力になるだろう。

■ゼネコン/優良協力会社を囲い込み
A ゼネコンのことしの受注は、東京外かく環状道路(外環道)などが貢献し、大幅に伸ばした社が多かった。
B 外環道ばかりに目を奪われがちだけど、外環道以外の道路やダムなどの大型案件も貢献したようだ。土木は利益率も比較的良い水準で推移している。
A 一方の建築はどうだったんだろう。
C 土木に比べると、前年の消費増税に伴う駆け込み需要の反動から、各社とも受注を減らしている。ただ、「例年と比べ受注額の水準自体は悪くない」という声も聞こえる。
A 民需が持ち直しているということかな。
C 一部ではそう言える。物流施設などがその代表格かもしれない。活況を呈すインターネット通販などの影響で大型物流施設の建設需要は根強いようだ。
A 気になる建築の利益率は。
D 着実に上向きつつはあるが、依然として回復途上だろう。建築の利益率の低さを土木でカバーするという構図から各社とも抜け出せずにいる。建築の利益率回復に向けては、各社あの手この手で努力を重ねているが、一朝一夕に効果が出るものではない。
C ただ、労務・資機材価格の変動について民間顧客の理解が進みつつあることは利益回復に向けた追い風だ。「一部の顧客は、実際に増加分を上乗せしてくれるようになった」(準大手)という話も耳にするようになった。そういう意味では来年はもう少し明るくなるかもしれない。
E 業績は着実に上向いているが、この状況に小躍りせず、将来を見据えた次の一手に向けて着実に準備している。本業でいえば、優良な協力会社の囲い込みだ。大手と準大手上位企業が民間工事で専門工事業・職人の社会保険加入負担分を支払う体制整備に動き始めたのも、その一環といえる。
B 確かに各社とも協力会社への計画的な発注や処遇改善に動き始めているね。各社のトップから協力会社との企業連合やサプライチェーンの再構築といった言葉が出始めており、来年以降に取り組みが表面化するのではないか。
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