リビタ(東京都渋谷区、南佳孝社長)が東京都中央区で進めているプロジェクト「リノア東日本橋」は、既存建物を一棟丸ごと取得し、共用部・専有部ともリノベーションした上で分譲する事業。建設コストが高騰している状況下で、かつ都心3区にありながら、個人のライフスタイルにあった住まいを比較的リーズナブルに手にできることから人気を集め、すでに販売住戸は全戸完売した。来春の竣工に向けて最終段階に入った改修工事の現場を、横浜国立大学大学院都市イノベーション学府の江口研究室から大学院生3人が訪れた。大石義高さん、巽つくしさん、松浦幸太郎さんが共同でリポートする。写真は南西向き住戸のスケルトン。
リビタが手がける「リノア東日本橋」の「一棟丸ごとリノベーション分譲事業」の現場を見学した。「一棟丸ごと」とは言っても、実際は現在も賃借人の方が数件居住されており、マンションの大規模修繕と同様に住んでいる方へ配慮しながら工事を進めている様子が印象的だった。事業主のリビタを始め、工事を手掛ける北野建設からも説明を受けることができた。その中で、この事業にはさまざまな職種の人や仕事が関わっていることを知った。そこで、「リノア東日本橋」に関わる人と仕事を中心に、興味深い点をリポートする。
◆マネジメント力発揮
事業主であるリビタは、一棟丸ごとリノベーション分譲事業を始め、さまざまなプロジェクトのマネジメントをしている会社である。プロジェクトごとに毎回何か新しい挑戦をしており、「リノア東日本橋」の場合は、専有部分となる各住戸の自由設計の実例として、モデルルームの設計にて、想定したターゲットに合致する入居者役を仕立てて、その人物と実際にプランニングを行った。
内装設計業務そのものは複数の設計事務所が担当しており、リビタの役割は、主にプロジェクトの仕組みをデザインし、それに必要なパートナー会社などを統括するマネジメントだ。その役割に徹し、業者間の連携などに集中できるからこそ、リビタならではのマネジメント手法が実現できている。
特にその特徴が表れていたのが、共用部分と専有部分の工事を分離発注している点だ。一般的に、施工のスピードと管理のスムーズさからゼネコンに一括発注する場合が多いが、リビタの一棟丸ごとリノベーションでは、住戸ごとに設計や仕様が異なるため、専有部工事は専有部の個別対応に強い施工会社に発注した。異なる施工会社を工事現場に入れるというのは、マネジメント力が強いリビタならではの手法であり、今後リノベーションを行う上で重要なノウハウであると感じた。
さらに、入居者がいる中での工事は、安全対策や工事工程の事前周知などの入居者への配慮とコミュニケーションが大切で、これまでの実績と蓄積されたノウハウが活かされていると感じた。
◆ターゲット絞りデザイン
各部屋の設計の進め方は、「リノア東日本橋」では「自由設計(フリーデザインコース)」とあらかじめリビタで設定したリノベーションプラン・仕様から選択する「スタイルリノベーションコース」、標準仕様にカラーセレクトと設備オプションを合わせた「セレクトコース」の3パターンがある。「スタイルリノベーションコース」でも、入居者好みに合わせた仕様やプランニングの変更が可能で、このコースを選択する人も多かったと聞いた。
もともと、住戸タイプが3タイプであるという既存建物の特徴もあり、今回見せていただいたリノベーション後の3つのモデルルームは、コンセプトや雰囲気が全く異なっていて、万人受けを狙うというよりも、ターゲットをぎゅっと絞ったデザインであると感じた。
このうち1住戸は、「自由設計(フリーデザインコース)」のモデルルームで、先述のようにモデルルームの設計を入居者役の人物とともに進めた。その人物の選定は、このエリアの特徴を分析した上で「エリア周辺の土地勘を持っている靴職人」とした。ほかの2住戸のモデルルームは「自由設計(フリーデザインコース)」と「スタイルリノベーションコース」で、これらも具体的なターゲットをエリアの特徴などからイメージして設計しており、取材時点ですでに入居者が決まっていた。
◆短い全体工期に対応
工事については、共用部の工事を手がける北野建設の現場監督に話をうかがうことができた。リビタの物件の工事を数多く担当し、プロジェクトによっては専有部工事なども手がけているという。お話をうかがっている時も、リビタのプロジェクトメンバーとの打ち解けた雰囲気が感じられ、良い信頼関係が築けているように感じた。
現場監督の話では、改修工事は、新築と異なり全体工期が短いため、検討時間があまり取れず即断即決が求められる。そういった状況の中では、事業主との信頼関係は特に大事だと感じた。
施工を手がける会社が抱える現在の問題点として、職人数の減少が挙げられ、特に左官職人や石職人、タイル職人など、仕事を覚えるのに時間のかかる職種での若手の減少が顕著であることを教えていただいた。
興味深かったのは、分業制に関しての話。昔よりも職種が細かくなってきており、いまでは重い荷物を上に運ぶための「荷上げ屋」という職業までできていることなどを教えていただいた。
今回の見学では、リノベーション前の部屋、工事中の部屋、リノベーション後の部屋と段階を追って見せていただいたので、とても分かりやすかった。
【研究室紹介/「建築」という枠組み考え直す】
横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院 江口亨准教授
専門は建築構法・生産である。なかでもリノベーションなどのストック活用に力を入れている。この数年は、施工現場や生産組織をおもな研究対象としている。
リノベーションについては、今回見学を快諾してくださったリビタを始め、現在は多くのプレーヤーたちが市場を牽引し、さまざまな経験知が蓄積されているが、プロジェクトの個別性は高い。
そのため、これらの知を体系化して応用可能なものにすることが、この分野の研究者の役割だと考えている。
そして体系化にあたり、建築以外の分野との連携を模索している。なぜなら、リノベーションは従来の「建築」の枠組みを超えており、不動産、金融、まちづくりなどの文脈と切り離せないからである。
【参加者の声】
修士2年 大石義高さん
リノベーション前、解体後のスケルトン、リノベーション後の3段階の部屋を順番に見せていただけたので、工事の流れやリノベーションの効果などが分かりやすかった。
修士1年 巽つくしさん
現場で働いている方にリノベーションならではの苦労や利点などを聞くことができ、貴重な経験になった。
修士1年 松浦幸太郎さん
リノベーションを手がけるさまざまな働く人の姿を生で見ることができて、とても刺激を受けた。
◆工事概要
▽建物名称=リノア東日本橋
(リノベーション後)
▽工事場所=東京都中央区日本橋2-21-1
▽発注者=リビタ
▽設計=アルコデザインスタジオほか3社
▽施工=共用部:北野建設
専有部:イングス、住環境ジャパン
▽工期=2014年6月-15年3月
▽敷地面積=411㎡
▽建築面積=323㎡
▽延べ床面積=2251㎡
▽構造=SRC造8階建て
▽用途=住宅
▽住戸数=21戸(うち18戸を今回改修)
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リビタが手がける「リノア東日本橋」の「一棟丸ごとリノベーション分譲事業」の現場を見学した。「一棟丸ごと」とは言っても、実際は現在も賃借人の方が数件居住されており、マンションの大規模修繕と同様に住んでいる方へ配慮しながら工事を進めている様子が印象的だった。事業主のリビタを始め、工事を手掛ける北野建設からも説明を受けることができた。その中で、この事業にはさまざまな職種の人や仕事が関わっていることを知った。そこで、「リノア東日本橋」に関わる人と仕事を中心に、興味深い点をリポートする。
◆マネジメント力発揮
内装設計業務そのものは複数の設計事務所が担当しており、リビタの役割は、主にプロジェクトの仕組みをデザインし、それに必要なパートナー会社などを統括するマネジメントだ。その役割に徹し、業者間の連携などに集中できるからこそ、リビタならではのマネジメント手法が実現できている。
右側手前からリビタPR担当の鈴木浩子氏、溝口めぐみ氏、北野建設の原田健作氏、リビタ現場担当の古澤裕子氏 |
居住者に配慮して工事が進んでいる |
◆ターゲット絞りデザイン
各部屋の設計の進め方は、「リノア東日本橋」では「自由設計(フリーデザインコース)」とあらかじめリビタで設定したリノベーションプラン・仕様から選択する「スタイルリノベーションコース」、標準仕様にカラーセレクトと設備オプションを合わせた「セレクトコース」の3パターンがある。「スタイルリノベーションコース」でも、入居者好みに合わせた仕様やプランニングの変更が可能で、このコースを選択する人も多かったと聞いた。
トップ写真の南西向き住戸の改修後(別階) |
このうち1住戸は、「自由設計(フリーデザインコース)」のモデルルームで、先述のようにモデルルームの設計を入居者役の人物とともに進めた。その人物の選定は、このエリアの特徴を分析した上で「エリア周辺の土地勘を持っている靴職人」とした。ほかの2住戸のモデルルームは「自由設計(フリーデザインコース)」と「スタイルリノベーションコース」で、これらも具体的なターゲットをエリアの特徴などからイメージして設計しており、取材時点ですでに入居者が決まっていた。
◆短い全体工期に対応
工事については、共用部の工事を手がける北野建設の現場監督に話をうかがうことができた。リビタの物件の工事を数多く担当し、プロジェクトによっては専有部工事なども手がけているという。お話をうかがっている時も、リビタのプロジェクトメンバーとの打ち解けた雰囲気が感じられ、良い信頼関係が築けているように感じた。
現場事務所として活用している南向き住戸 |
その改修後 |
施工を手がける会社が抱える現在の問題点として、職人数の減少が挙げられ、特に左官職人や石職人、タイル職人など、仕事を覚えるのに時間のかかる職種での若手の減少が顕著であることを教えていただいた。
興味深かったのは、分業制に関しての話。昔よりも職種が細かくなってきており、いまでは重い荷物を上に運ぶための「荷上げ屋」という職業までできていることなどを教えていただいた。
今回の見学では、リノベーション前の部屋、工事中の部屋、リノベーション後の部屋と段階を追って見せていただいたので、とても分かりやすかった。
【研究室紹介/「建築」という枠組み考え直す】
江口教授 |
専門は建築構法・生産である。なかでもリノベーションなどのストック活用に力を入れている。この数年は、施工現場や生産組織をおもな研究対象としている。
リノベーションについては、今回見学を快諾してくださったリビタを始め、現在は多くのプレーヤーたちが市場を牽引し、さまざまな経験知が蓄積されているが、プロジェクトの個別性は高い。
そのため、これらの知を体系化して応用可能なものにすることが、この分野の研究者の役割だと考えている。
そして体系化にあたり、建築以外の分野との連携を模索している。なぜなら、リノベーションは従来の「建築」の枠組みを超えており、不動産、金融、まちづくりなどの文脈と切り離せないからである。
【参加者の声】
修士2年 大石義高さん
リノベーション前、解体後のスケルトン、リノベーション後の3段階の部屋を順番に見せていただけたので、工事の流れやリノベーションの効果などが分かりやすかった。
修士1年 巽つくしさん
現場で働いている方にリノベーションならではの苦労や利点などを聞くことができ、貴重な経験になった。
修士1年 松浦幸太郎さん
リノベーションを手がけるさまざまな働く人の姿を生で見ることができて、とても刺激を受けた。
◆工事概要
▽建物名称=リノア東日本橋
(リノベーション後)
▽工事場所=東京都中央区日本橋2-21-1
▽発注者=リビタ
▽設計=アルコデザインスタジオほか3社
▽施工=共用部:北野建設
専有部:イングス、住環境ジャパン
▽工期=2014年6月-15年3月
▽敷地面積=411㎡
▽建築面積=323㎡
▽延べ床面積=2251㎡
▽構造=SRC造8階建て
▽用途=住宅
▽住戸数=21戸(うち18戸を今回改修)
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