2014/12/20

【現場最前線】大江戸線のリニア軌道を守る! 東鉄工業の「東京線路支店地下鉄工事所」

木場公園(東京都江東区)の地下に都営大江戸線の車両基地があることは広く知られているが、基地が列車の安全運行に欠かせない軌道保守工事の重要拠点でもあることはあまり知られていない。同線の軌道保守工事を発注する都交通局木場保線管理所が入る基地直結の木場庁舎に事務所を置く、東鉄工業東京線路支店地下鉄工事所には、佐久間清所長を含む3人が常駐し、独自のノウハウと高い技術力で安全運行を支えている。歴史の浅いリニア軌道構造で「保守のスタンダードを築いていきたい」(佐久間所長)と、現状に甘えることなく改善を重ね、安全を提供し続けている最前線を訪ねた。

 大江戸線は、トンネルを小断面化して建設コストを抑制するため、リニアモーター駆動方式を採用している。いわば浮かないリニアだ。
 磁石の力で推進するため、リアクションプレートがレールとレールの間にあるのが大きな特徴で、車輪に駆動力はない。最急勾配はJR在来線の35‰(パーミル)より大きい50‰、最急曲線半径100mの線形のため、車両の小回りが利くといったメリットがある半面、保守工事の実施に当たっては、“狭く曲がりくねった空間”が作業を進める上で大きな障害になる。
 地下鉄工事所は、牛込神楽坂駅~国立競技場駅までの21.1㎞の木場保線区管内の軌道保守工事などを担当。レール交換は月に5、6回の頻度で行われるが、1日の作業で交換できるのは125mだ。一般的にレールは25mごとに現場で溶接するが、単線シールドでトンネル径が小さい上に急曲線も多く、現場溶接が困難なことから、「ぎりぎり曲がることができる長さ」(佐久間所長)という125mの長尺レールにあらかじめ溶接してから現場に運ぶ。
 溶接は地下2階にある作業線で昼間に行う。溶接したレールは、交通局から貸与されている軌道モーターカーに専用の運搬台車を9台つなぎ、1回当たり4本を運ぶ。「着実な積み込み状態を確認しなければ、大事故につながりかねない」ため、チェックリストを活用しながら慎重に作業を進める。
 レール交換には軌道工20人、溶接工5人、所員1-2人のチームで当たる。交換作業は、終電後の午前1時から4時までの正味3時間しかなく、時間内に2本のレールを交換するためには、「資材を事前に運んで置いておく」など、効率化のための創意工夫と緻密な工程管理が重要になる。
 リアクションプレートは、経年劣化による溶接部の亀裂などを確認するため、定期的に点検する。5-2.5mピッチで交換するが、ボルトの締め方が弱いと磁力で浮き上がり、車両の破損など思わぬ事故につながる可能性もあるため「作業には細心の注意を払っている」という。

佐久間清所長
佐久間所長は2013年4月から“2代目”として現場の指揮を執る。「以前はJRの在来線をやっていたので少し戸惑いはあった」というが、いまではリニア保守のスペシャリストだ。「利用者に迷惑をかけない。発注者に良い成果物を返す」をモットーに、今日も終電後の“ミッション”に備えている。
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