2014/12/31

【記者座談会】2014年を振り返る(その2) 設計・コンサルと設備

■設計・コンサル/士法改正、公共は堅調推移

  写真は改正建築士法の周知徹底と円滑な実施に向け、中央・地方の行政機関、民間団体に対する共同要望に取り組む建築3会(左から芦原JIA会長、大内日事連会長、三井所士会連合会会長)。


A 建築設計業界では、建築士法改正が一番のニュースだった。
B 内容は書面契約の義務化や「丸投げ」の禁止、適正な報酬の基準に準拠した契約締結の努力義務などで建築主と設計者の責務を明確化した。建築設備士も士法で位置付けられたし、建築士の業務環境や設計の質そのものが向上することが期待されている。
C 適切な運用のためには設計者側の意識変化はもちろん、建築主への啓発も重要になる。今回の改正をきっかけに、受発注者ともに責任を自覚した建築生産がより一層求められるだろう。
A 改正の実現には、日本建築士事務所協会連合会、日本建築士会、日本建築家協会による共同提案が大きな要因になったのは間違いない。
B 各団体はさまざまな思いを持って活動してきたけど、団体間の連携で法改正も可能であるという成功体験を共有できたことは大きい。今後は、各団体とも社会への働き掛けをさらに強めるだろうね。
D 建設コンサルタント業界は昨年に引き続き、受注高、売上高とも各社好調だった。国土強靱化基本法やインフラの老朽化対策など好材料が多く、売上高の8割を占める公共事業が堅調に推移したことが大きい。
E 確かに業績は好調だったが、担い手の確保・育成の面では各社とも頭を悩ませた1年だった。建設コンサルといえば、長時間労働というイメージが定着しているが、10月には建設コンサルタンツ協会が全会員一斉の『ノー残業デー』を実施した。定時退社率などは年明けにもまとまるが、長時間労働の是正に向けた象徴的なイベントとして注目された。
D 担い手の確保・育成は建設業界全体の問題だ。コンサル各社も女性の登用やシニア層の活用、多様な勤務形態など働きやすい職場づくりに知恵を絞っている。魅力のある業界に向けた取り組みは、年明け以降も続きそうだね。

■設備/元請けが技能向上を支援

大手会員企業の人材・設備を活用した日本電設工業協会の実技講習会が11月20、21の両日、東光電気工事の市川研修センターを皮切りにスタートした

A 設備業界のこの1年はどうだっただろう。
B やはり人材の確保・育成に力を入れる姿勢が目立った。団体では、日本空調衛生工事業協会が「人材確保・育成特別委員会」を11月に設置し、業界としてどう対応するか検討に乗り出した。15年には方向性と具体的な活動方針をまとめ、順次実施に移る。日本電設工業協会は、大手会員企業が持つ研修施設を活用した実技講習会を始めた。傘下の都道府県協会会員企業の社員を対象に、大手会員企業が施設や講師を提供して電気工事士の資格試験対策などを実施していく。業界全体の技術・技能のレベルアップを目指し、15年は全国で展開する。
C 企業でも技能の継承や人材の確保に向けた動きは強い。例えば新日本空調は、今期からの中期経営計画で新人事制度に着手しており、定年再雇用者の役割や位置付けを明確にし、若手へのノウハウ伝承を円滑にしようとしている。こうした動きは他社でも同様だ。
B 現場の人材を確保する上では、協力会社との関係強化も欠かせない。協力会社を表彰して信頼関係を強めるマイスター制度を実施する動きも浸透し、ことしは三機工業も制度の運用を始めた。工程のしわ寄せを設備工事が受けたとき、柔軟な対応を進めるには協力会社との連携が不可欠。処遇を改善したり、技能の向上を元請けとして支援する動きもある。
C 社員が複数の資格を保有するマルチスキル化を推進する企業も目立っている。利益率を上げるためには、業務の効率化やコストダウンが必須で、1人の社員が電気や空調、情報通信などをこなせれば、固定費も抑えられる。人材の確保が設備業界内だけでなく、発注者やゼネコンとも競争になる中で、工事量は増えても直ちに人は増えない。一人前になるまでには時間も必要で、人材不足を補う方法としてマルチスキル化は避けられないとみる経営層もいる。

■メーカー/五輪通過点に海外成長へ

住設メーカー各社はリフォーム需要を見越したショールーム構成にシフトする動きが目立った
A 消費税率8%を境に、メーカーを取り巻く事業環境は大きく様変わりした。住宅着工戸数は前年同月比10%以上の落ちが続いている。当初見込んでいた以上に、住まいへの消費者ニーズは冷え込んだ。期待していたリフォーム需要が盛り上がってこないことで、特に住設メーカー各社は出鼻をくじかれてしまった。
B 落ち込みといえば、右肩上がりで推移していたセメント需要も一服感が出始めている。単月でみると、セメント販売量は6月に18カ月ぶりのマイナスとなってからは、9月を除きマイナス基調が続いている。建設現場の人手不足による工事進捗の遅れが販売量に影響しているという見方が広がる中で、工事そのものが消滅してしまったのではないかと危ぐする声も聞こえる。
C 直近11月の販売量は沖縄を除き、すべての地区がマイナスとなっている。セメント業界で掲げていた4800万tの内需見通しは、4700万tを下回る可能性がある。ただし100万tの減少は輸出によって補完できる範囲内で大きな支障はない。円安により、ある程度の利益が見込める追い風もある。
D 分野を問わず経営者に一致する流れは、20年までに海外の事業基盤を整えるという方向性だろう。凸凹はあるにしろ、国内では東京五輪開催まではある程度の建設需要を見込める。五輪を通過点に成長路線を歩むのは、メーカーに限らず建設産業界の経営トレンドであることは間違いない。
A 生産改革も加速しそうだ。原材料の高騰が懸念されるが、安易に製品価格に転嫁すれば、競争力を落としかねない。自助努力によって、コスト増をどこまで吸収できるかが勝敗を左右する。ここに来て生産効率を上げる設備投資にかじを切る企業も少なくない。それは海外を見据えて取り組み始めたグローバル人材の育成にも当てはまる。
C 間違いなく15年は経営の転換点になる重要な節目になるだろう。しっかりとした強い意志を持ち、10年先、20年先を見据える企業には力強さがある。変化への対応力を重視する企業経営が、いままさに問われている。
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