2014/12/14

【技術裏表】構造解析でなく実測値から状況把握 地震後の建物健全度を評価する「揺れモニ」

東日本大震災を機に、高層ビルに構造モニタリングシステムを導入する動きが拡大している。リアルタイムに建物の損傷を把握したいという所有者の危機管理意識が高まっていることが背景にある。「モデル解析に頼らず実測値から建物の状態を把握できる」と強調するのはNTTファシリティーズのリスクマネジメントシステム部門で主任研究員を務める吉田献一氏。同社の『揺れモニ』は構造解析モデルを使わない画期的なモニタリングシステムとして注目されている。

 2年前の初採用から既に13件の建物に導入した。今後の導入予定も13件に達し、検討中まで含めれば50件規模にまでふくれあがる。NTTグループ以外の顧客が半分以上を占め、しかも同業他社が設計する新築や既存ビルへの導入も少なくない。「年100件の導入目標も現実味を帯びてきた」と、グリーンITビルプロジェクト本部プロジェクト推進担当課長の栗田聖也氏は手応えを口にする。
 競合するシステムが多い中にあって、なぜ揺れモニは優位性を発揮しているか。既存の40階建てビルへの導入は工事費込みで約1250万円。他社製品は1600万円程度となり、その開きは大きい。しかも全階に計測機器を置く同社と違い、他社は機器を3-7階に1台の割合にとどまる。
 開発責任者を務めた吉田氏は「各階すべてにセンサーを置くことで、あえて構造解析モデルを作成する必要がない。建物の揺れ方を計測するセンサー機器自体のコストを抑え、各階への導入が実現できた」と明かす。一般的なシステムは地震専門家が使うような高価な地震計をセンサー機能として使うため、コスト的に全階への配置が難しい。そこで計測結果に基づき、構造モデル解析とともに、建物の変況を割り出す仕組みが一般化している。
 建物には、設計基準以上の強度で余裕を持たせた施工事例が多く、構造解析を用いた場合に実測値とのかい離が生じる可能性がある。仮に手抜き工事などで実際の設計基準を満たしていない建物の場合には的確な状況を把握できない。構造モデル解析を使わない揺れモニはまさに実測値から状況を把握できるシステムであるのだ。

装置は30センチ角
開発時の焦点となったのは計測機器の価格をいかに抑えるか。着目したのはスマートフォンやゲーム機の画面が使う向きによって自動的に切り替われる際の要素技術として使われる「MEMS」という加速度センサーだった。大量生産されているため、大幅に価格も抑えられる。
 ただ、センサー自体の大きさが1cm角と小さく、長周期地震動のような大きくゆっくりとした揺れの計測には不向き。同社は3次元振動試験装置を使い、さまざまな揺れに対応できる調整手法を割り出すことに成功した。「センサーには微妙なばらつきがあり、設置前には一つひとつ微調整する必要があるが、高価な地震計に比べればコストを大幅に抑えられる」(吉田氏)。

NTTグループのシステムを24時間監視する部隊がバックアップ
先月からは、複数のビルを所有するオーナー向けの情報提供もスタートさせた。NTTグループのシステム稼働状況を24時間監視しているFOC(ファシリティーズオペレーションセンタ)の部隊がバックアップし、複数のビルに情報提供を行うという他社にはまねのできない強みだ。栗田担当課長は「全国規模で建物を所有するディベロッパーなどのBCP支援に貢献できる」と強調する。
 その先もしっかりと考えている。吉田氏は「大地震の建物変形だけでなく、あえて震度1-3程度のデータを活用することで、より高度な維持管理が可能になる。そこに新たなコンサルティング業務の道が見えてくる」と見通す。各階に置く計測機器は30cm角と小さい。35階建てビルへの設置工事は夜間と土日作業のわずか約10日間という手軽さも導入に拍車をかけている。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 【技術裏表】構造解析でなく実測値から状況把握 地震後の建物健全度を評価する「揺れモニ」 東日本大震災を機に、高層ビルに構造モニタリングシステムを導入する動きが拡大している。リアルタイムに建物の損傷を把握したいという所有者の危機管理意識が高まっていることが背景にある。「モデル解析に頼らず実測値から建物の状態を把握できる」と強調するのはNTTファシリティーズのリスクマネジメントシステム部門で主任研究員を務める吉田献一氏。同社の『揺れモニ』は構造解析モデルを使わない画期的なモニタリングシステムとして注目されている。  2年前の初採… Read More
  • 【雷ミハリ番】実証実験のため3ヵ月無料貸出し! 全国300ヵ所の公共団体募集 音羽電機ら 音羽電機工業(兵庫県尼崎市・吉田修社長)と具現化(大阪市・仲島秀豊社長)は、雷センサーのレンタルサービス「雷ミハリ番」=写真=を全国300カ所を対象に無料貸し出しする実証実験を始める。  自治体を始め学校など公共に準じる団体を対象に、雷ミハリ番を無料で貸し出す。募集数は300カ所、実証実験期間は、2015年4月から6月までの3カ月。 雷ミハリ番は、避雷器など雷対策メーカーとして知られる音羽電機工業が開発した雷センサー技術を使ったサービス。セ… Read More
  • 【技術裏表】“大部屋”流の開発方式で、一番安いLED防犯灯を作る! 岩崎電気 「究極のものづくりが実現した」と、岩崎電気の五月女和男取締役執行役員埼玉製作所長兼製造統括本部長は10月に発売した取付間隔20mの防犯灯『レディオック・ストリート10VA』を指差す。開発期間わずか4カ月で、従来品の半額近くまでコストを引き下げ、業界で初めて1万円を切る価格帯に踏み込んだ。製品開発のスタート時から関連部署の担当者全員が議論を始める“大部屋”のものづくり改革が、同社の競争力を下支えしている。  トヨタ自動車の関連コンサルチームか… Read More
  • 【災害ロボ】国交省が人型など6技術を雲仙で検証 国土交通省は、災害対応ロボットの現場検証を長崎県の雲仙普賢岳で15日から19日にかけて実施している。現場を公開した17日には、産学官で構成する「次世代社会インフラ用ロボット現場検証委員会」を始め、地元自治体や開発関係者ら約80人が参加し、検証状況を見学した。写真は富士建のDOKAROBO。  人の近づくことが困難な災害現場の早期復旧に貢献する実用性の高い災害応急復旧のロボットを公募し、このうち実用化に近い5者6技術を現場検証した。応募は維持… Read More
  • 【古河ロックドリル】ドリルジャンボに情報化施工! リニア向けに発売開始 古河ロックドリル(本社・東京都中央区、三村清仁社長)は、大口径断面対応のドリルジャンボに情報化施工を取り入れ、マシンガイダンスによる穿孔支援システムを実用化した。マシン後方のトータルステーション(TS)でジャンボ本体と穿孔用のガイドシェルの位置を計測し、オペレーターに計画どおりの穿孔位置や差角を伝える。穿孔深さも自動で判断し、余掘りを最小限に抑えることができる。穿孔時の圧力もすべて記録でき、LANで現場事務所や元請企業の本社とも共有できるシ… Read More

0 コメント :

コメントを投稿