2014/12/15

【山下PMC】改正耐震改修促進法に考える「利益と課題解決の同時実現」 2020以降の建設学

一定条件以上の建築物では、耐震診断の報告義務が来年(2015年)末までに迫っている。旧耐震基準(1981年以前)で設計されたもので、病院・店舗・ホテル・旅館など「不特定多数の人々が利用する建築物」と、学校・老人ホームなど「避難に配慮が必要な人々が利用する建築物」がその対象だ。これは2014年11月25日に施行改正された耐震改修促進法によるものである。

 もちろん、東日本大震災による被害発生が改正促進の引き金になったのは言うまでもない。地震に対する備えの意識が希薄にならないうちに、日本全国の対象施設をすべて耐震化していこうというのである。学校や病院などでは、既にかなりの割合で耐震化が進んできたが、まだまだすべての施設にまで及んでいるわけではない。30年以上経過して償却年数の後半側を迎えている施設ばかりである。施設経営者にしてみれば、当初簿価にも計上されていなかった項目が、法律が改正されたばっかりに、予期せぬ再投資となって顕在化するのだから、腰が重たくなるのも無理もない話だ。
 なかでも大変なのがホテル・旅館である。もともと大幅な利益を上げるような業態ではない。利用客のために実行したい気持ちはあっても、いざ耐震改修をやろうとすると、部分的であれ稼働できないエリアが発生し、全体収益を下げる結果を強いられてしまう。
 一方、これとは相反するような形で、今日本にインバウンド(訪日外国人)の波が押し寄せている。10月末の時点で既に昨年の1000万人を上回る勢いである。これからも確実に増えていくことが予想されている。インバウンドは言ってみれば外需である。そのインバウンドが内需を刺激して、相乗で経済を押し上げようとしている。であれば、この需要を取り込まない手はない。
 ただし、ここには大きな課題が立ちはだかる。インバウンドの人たちは、日本人が常日ごろ感じている以上に、地震に対して極端に敏感だという現実である。したがって、この需要を取り込もうとすれば、施設に求める耐震安全性は、避けることのできない重要解決項目に位置付けられてくる。
 ということは、これから先のホテル・旅館経営を考えていく場合、施設への安全責任は必需のアイテムとなるということである。これは企業が社会的責務を果たし、社会に貢献していくCSR(企業の社会的責任)の一環でもある。とかくCSRというと、これまでは慈善事業のような付加的活動という意味合いで、企業の経営戦略や事業活動そのものとは直接結びつきにくい印象で捉えられてきた。
 しかし、直近ではCSRのさらに上位の思想として、CSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という概念が台頭しつつある。これは、企業にとって経営戦略の1つとして認識され、企業が追求する経済的価値(利益)の向上と社会的な課題の解決という本来は相反する目標を同時に実現し、社会利益にまでつなげていこうとする考え方である。これならば、投資判断自体は重い決断だとしても、将来の事業継続のために許容することのできる考え方ではないだろうか。そして、耐震診断や耐震改修の実施に際しては、補助金制度や税の減免措置なども用意されている。また、改修が完遂した暁には安全表示マークを掲げて利用客に堂々とアピールすることもできる。
 これら優遇制度をおおいに活用して、積極的に将来需要を広げていくほうが、間違いなく未来は明るい方向へ向かう。
 さらに、CSVは1企業だけにとどまらない。インバウンドの活況をさらに大きなうねりに変えていくには、公共団体から地域企業、インフラ、建築、コミュニティーなどの要素がネットワーク状に紐づき、面的に広がっていく流れを創り出すのである。そこには、(1)既存のビジネスにこだわらず社会的な課題を俯瞰する(2)バリューチェーン全体にまたがるマクロな視点で臨む--ことが肝要になる。これが達成できれば、今後全世界の国々が目指そうとする模範になることだって有り得る。
 ところで、誰がそれを実践し克服しようというのか? 今、この記事を読んでいるあなたかもしれない。
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