建築家の山本理顕氏は、セントラル硝子国際建築設計競技の50周年記念講演会で、自身の経験を踏まえ、設計コンペに対する考えを語った。勝つことを目指すよりも、その建築を利用する人々と施設の方向性を共有することで説得力のある建築につながると力説した。
その具体例として、スイスのチューリッヒ国際空港に隣接して建設される複合施設の国際設計コンペを紹介。世界12カ国から90チームが参加した、このコンペでは同氏が率いる山本理顕設計工場が最優秀賞を射止めたが、主催者側からは提案に当たって「本当の意味でのスイスらしさは何かをよく考え、サプライズがあり、世界に通じる、未来のスイスのために設計してほしい」との要求があったという。
これに対し、「スイスらしさとは緻密性」だと規定し、その緻密さを徹底的に表現しようと、PC工法による極限まで細い柱で構成する建築を提案。さらに新しいライフスタイルをつくる多様な「都市」としての建築、スイスの中世都市の構造をまったく新しい技術と工法とデザインで再現する建築をコンセプトとして提示した。
ポートフォリオ審査やワークショップ、プレゼンテーションなどを通じ、地域住民や利用者とコミュニケーションをとりながら審査は進み、最終選考には5者が残った。
最終審査では、空港を利用する人の物語を上映することを通じて、より広くリアリティーを共有できるよう努めた。「最終的に、会場が『これがいい』と言って盛り上がった」という。
「コンペは自分が美しいと思っているものを他人にも同じように美しいと思ってもらうための試みに似ている」。そうしたプライベートな感覚の共有こそが、コンペに参加する真の目的ではないかとも考える。
だからこそ「コンペは、勝つことを目的にしてはだめだ」という。設計者は審査員の視点を意識するあまり、管理のしやすさばかりを追求する傾向があると指摘し、「その建築を使う誰かと感覚を共有することから始めるべきだ」と、使い手とのベクトルを合わせることを重視する。
最近の建築は個人の作品のようになってしまい「矮小化している」とも。国内外を含めて「他者との関係性の中で施設をつくろうという心意気を持ってほしい」と呼びかける。その意味でも日本では近年、設計コンペの開催が少ないと感じている。手間やお金もかかるが「市民やユーザーの声が聞ける分、つくり手側もいい加減な態度では取り組めなくなる」と、メリットを強調する。
セントラル硝子が50年にわたり若手建築家の登竜門としてコンペを続けてきたことには「建築を支援することが社会貢献に結びつくという考えに基づいたものだ」と高く評価。その上で「建築家もより良い建築を造ることが社会貢献になるという意識を持つべきだ」と訴えた。
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