2016/05/31

【熱中症予防対策】死者は2次、3次の下請けで発生 対策を栄内科院長・山田琢之氏に聞く


 熱中症による死者は、猛暑だった2010年に全産業で47人を記録した。うち建設業では17人、警備業では2人の計19人が死亡した。その後、建設業と警備業(両者をあわせて建設業等という)の死者は増減を繰り返してきたが、15年には建設業で12人、警備業で7人と、10年と同じ人数が死亡したことを受け、厚生労働省は2月29日、建設業等を「熱中症予防対策重点業種」として指定した。熱中症を予防するためには、熱への順化期間を計画的に設定するほか、自覚症状の有無にかかわらず定期的に水分・塩分を補給するなどの対策が求められる。暑さの本番を迎えるに当たって熱中症予防対策を「かくれ脱水委員会」委員で、栄内科院長、なごや労働衛生コンサルタント事務所所長の山田琢之氏に聞いた。

--産業医として、現場によく行かれると聞いています
 「ゼネコンや設備工事会社なども担当していますが、やはり現場に行かなければ熱中症のことは語れません。そこで経験した事例としては、住宅の解体現場で働いていた外国人が、突然、母国語で話し始めたため、涼しいところで横にさせたのですが、次に見に行った時には冷たくなっていたというケースです。また、電力系の工事現場では水分補給が不十分の監督者が、作業車を移動させる時に脱輪し、意識ももうろうとしていたため入院させたのですが、翌朝、亡くなりました。私としては、意識障害やけいれん、手足の運動障害、高体温というIII度の熱中症になった場合、命は助からないと思っています」
 
山田琢之氏(栄内科院長、なごや労働衛生コンサルタント事務所所長)
■朝食抜きは大きな要因
 「職業病学の始祖といわれるイタリアのB・マラッツィーニの著書『ガラス製造人と鏡製造人の病気』では、ベニスのムラーノ島、中世のベネチアンガラス製造人の熱中症の実態と対策が書かれています。その中で注目したのが、水だけを飲んだ職人はたちどころに死んだため、彼らはブドウ酒をベニスの地下水で割って飲んでいたという点です。塩味の強いベニスの地下水と、ブドウ酒を混ぜることで糖分と塩分をとっていたんです。なんと、経口補水療法を300年前にしていたのです。日本でも、熱中症対策として水分補給のほか、夏にはみそをなめたり、濃いめの味付けをした食事をとっていました」

--熱中症での死者が増加したことから、厚生労働省では建設業と警備業を熱中症予防対策重点業種とし、屋外作業を中心に、特に留意する点を示しました
 「建設業の死者は2次、3次の下請けで発生しています。その点に注意してほしいですね。作業当日の朝、現場所長は作業員の体調を確認し、よくないようなら帰宅させる。その際、現場に来たことを補償をしてあげることが必要だと思います。健康診断を受けているかどうかも確認して下さい。また、前日の飲酒や朝食をとったかどうかも、熱中症対策の一環としてチェックすることが大切です。ごはん成分の多くは水ですし、豆腐も85%は水分です。朝食をとれば350mmリットルくらいの水分をとったのと同じになります。朝食抜きは熱中症発生の大きな要因なんです」
 「職場における暑さ指数(WBGT値)は、健康な状態の成年男子が、熱暑下で軽装をしている前提で基準値が設定されています。一方、建設現場ではヘルメットや作業着を着用していますから、その分を勘案することが必要です。また、中高年労働者への配慮も求められます。加齢に伴って口の渇き感が減少していきますから、定期的に水分を摂取することが重要になります」

■喉の渇きはメッセージ
--水分補給には水だけではなく、電解質も同時にとれる経口補水液が良いでしょう
 「水分は小腸で吸収されます。ですから、胃にどれだけ水分を溜めても意味はありませんし、水だけだと小腸で吸収されるまで約18分ほどかかると言われています。一方、塩分や糖分が入っていると浸透圧などの関係で3分の1の時間で吸収されます。喉が渇くというのは、自分の体からのメッセージですから、とにかく飲む。それ以外にも定期的に飲むということが大切になります。脱水を感じたら、熱中症の予兆と考え、水分、そして電解質をとるように心掛けて下さい」

■少しずつ体を暑さに慣らす

--このほか、注意すべきことはなんでしょうか
 「梅雨から夏季になる時期などで、急に暑くなった場合、体はまだそれに慣れていません。ですから最初は休憩を多めに設定し、少しずつ作業時間を増加させて、体を慣れさせていくことが必要です」
 「それと、吸湿性・通気性のよい材質の作業着を選ぶこと、ヘルメットは後部に日よけを取り付けて輻射熱を遮るようにすることも効果があります。ヘルメットの外部表面に遮熱塗料を2層塗りしたものも開発されており、比較試験で最大10度の内部温度差があることが確認されています」
 「拭いても拭いても汗が出て、ボタボタ落ちるのは既に一度、熱中症になっていると思って下さい。玉のような汗は気化熱がとれないのでよくありません。こうした点にも注意することが必要です」建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら 

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