2016/05/21

【現場の逸品】進化した「Uメイト」 カメラ付きヘルメットで、リアルタイムに情報共有


 「この1年で100現場への採用を目指す」と谷沢製作所営業部の高野栄次課長は意気込む。ヘルメットメーカー大手の同社にとって初めて国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録したリアルタイム情報共有システム『Uメイト』は、業界に先駆けて取り組んできた次世代ヘルメットの進化版でもある。10年以上前から開発を進めてきただけに、こだわりが詰まった自信作だ。

 社内でカメラプロジェクトがスタートしたのは2002年。そのメンバーでもあった商品開発部の山本光陽課長は「答えが出ず、悩み抜いていた」ことを思い出す。携帯電話は普及していたが、ヘルメットにカメラを装着し、動画や画像を送るという技術は一般化していなかった。商品化に踏み切ったのは09年3月のことだ。
 遠隔地から現場作業員が見たままをリアルタイムに確認できれば、安全対策の大きな手助けになる。建設業界に限らず、製造業なども労働災害が問題視され、情報通信技術への期待は昔から絶えなかった。カメラと通信機器を組み込んだヘルメット『Uメット』を開発し、保護帽認定を取得すると、予想を上回る反響となった。

2009年3月に商品化した一体型ヘルメット「Uメット」

 営業部通信営業課システムソリューション担当の小室達之マネージャーは「インパクトは絶大で、これはいけるという感触を持ったが、実際に装着する現場作業員の評価は思わしくなかった」と明かす。通常のヘルメット重量が400グラム程度であるのに対し、Uメットは945グラム。倍以上の重さに加え、ヘルメットとの一体構造であったため、企業ごとに統一するヘルメットのフォルムに合わせることができない課題もあった。
 それでもゼネコンや製鉄会社などが現場作業向けに活用し、医療機関などがBCP(事業継続計画)対策ツールとして取り入れるなど、これまでに計10社に約100台が売れた。データを保管する専用サーバーを持つ必要もあり、導入企業は限定され、しかも通信環境の問題も販売のネックとなっていた。ただ、緊急時や予防保全の観点からも、現場のニーズが高いことは分かった。
 抜本的な見直しを行い、フルモデルチェンジしたのは14年11月だ。登場した『Uメイト』はヘルメット一体型ではなく、機器類を搭載したカメラをクリップ留めするスタイルだった。通信はスマートフォンを経由して送る仕組みとし、あくまでも軽量化にこだわった。山本氏は「名刺サイズの大きさで、重さは110グラムに抑えた」と胸を張る。
 売れ行きも上々だ。直近1年間では50台が契約した。1社当たりの導入台数は少ないものの、採用企業は20社に達する。橋梁メーカーや上下水道メーカーなどは工事現場の管理に使い、工場のメンテナンス作業や建設コンサルタントが現地調査のツールとして活用するケースもある。動画モードとコマ送りモードの2種類で撮影でき、最大72時間の使用が可能。企業によって、使い方もさまざまだ。
 「あえてクリップ留めでヘルメットに装着している点がアイデアの1つ」と、通信営業課技術営業担当の池田利夫マネージャーは強調する。ヘルメット一体型では作業員の目線からしか、画像を送れないが、クリップ留めにすることで取り外しが容易になり、より拡大して見せたい場所の画像も撮影できる。カメラ用の市販アタッチメントなどを取り付ければ、高い位置の撮影も可能だ。

最大8台の画像を3カ所で同時確認できる

 最大8台のUメイトで撮影した画像を、3カ所の遠隔地から確認でき、しかもグループ通話で密に情報共有できる。現場への細かな指示出しが可能になり、若手作業員を現場に向かわせざるを得ない場合のフォローにも最適だ。池田氏は「市販のキャプチャーソフトを使えば、自由に画像データを編集できることから、技術伝承の映像マニュアルづくりにも役立てられる」とつけ加える。
 Uメイトの本体価格(税別)は12万5000円。同社はNETIS登録を機に、建設会社への売り込みも積極的に始めた。ゼネコンでは数社が検証を行ったが、まだ導入に踏み切った企業はない。高野氏は「可視化した現場の状況を共有するツールとしても利用価値はある。流れが出てくれば一気に増えてくるはずだ」と期待している。
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