建築家の丹下健三が設計を手掛けた山梨文化会館。1966年に竣工した、この歴史的価値ある建物の免震改修工事が丹下都市建築設計の下、三井住友建設(元施工)により進められている。入居する山梨日日新聞、山梨放送など山日YBSグループが日々の業務を行っている中、その外観を特徴付けている16本の円筒柱の地下階柱脚部に免震装置を設置し、地下外壁の縁を切る中間階免震レトロフィット構法による改修で、「成功させよう 免震レトロフィット」とのスローガンの下、現場職員と作業員が一丸となって難工事に挑んでいる。
山梨文化会館は、丹下建築を代表する作品の一つで、円筒柱16本と梁で支えられた存在感のある外観が特徴となっている。60年代の建築運動「メタボリズム」を象徴する建築物として知られ、免震化に当たっては、その外観を損なわず、執務空間への影響もほとんどなく工事が行える中間階免震レトロフィット構法が採用された。
切断後に仮設支柱と油圧ジャッキで支えられた施工中の柱脚部 |
建物を支える円筒柱の直径は約5mで、柱1本当たりの支持荷重は約2500t。内部は約3.6mの空洞となっており、階段やエレベーター、トイレなどに使われているため、「16本の柱を4ブロックに分け、建物の構造的なバランスと、建物内で業務を行っている人たちの使い勝手を考慮しながら、免震装置の設置作業を行っている」と北澤基至所長は説明する。
設置する免震装置は、錫プラグ入り積層ゴム支承(SnRB)、天然ゴム系積層ゴム支承(NRB)に加え、三井住友建設が開発した、地震時の大きな引き抜き力にも抵抗可能な直動転がり支承(CLB)の3種類計68基。荷重計算上、完全に切断され、宙に浮いた状態にある柱は2本までという制約の下、5本の柱の免震化が完了し、7本の柱を施工中だった(3月24日時点)。
CLBの設置が完了した柱 |
受変電室などと接する柱もあり、ワイヤーソーで柱を切断する際に水を使うため、細心の注意が求められる。このため、「工事着手前に床下の電線を天井に移し替え、その後、ベニヤ板で囲って作業を進める」(北澤所長)という。切断する柱のコンクリート塊は1ブロック約2t、CLBは約3.6tもあり、狭い中で人力で運搬しなければならないため、非常に手間の掛かる作業となる。
また、毎日午前11時30分-正午、午後4時20分-5時はテレビの生放送があり、音が出せないため、その間は作業を中止。毎時50分から10分間はラジオの生放送もあり、ラジオは防音室を使っているが、作業内容によっては中止する。
見学者が多く訪れる現場には「免震レトロフィットの達人たちだっ!!」と題した職長の顔写真入りプレートが掲げられ、趣味・特技や工事に対する想いを紹介。また、現場職員と作業員がヘルメットに「成功させよう 免震レトロフィット」とのシールを貼って想いを一つにして工事に当たっている。
免震レトロフィット構法による改修工事が今回で3回目となる北澤所長は「事故を起こさず、工期内に終わらせ、この難工事を絶対成功させたい」と強調し、菅原伸一統括所長も「今後は設備機器や人のいるところでの作業となるため、この間の作業経験を生かしながら、終わりまで事故を起こさないよう進めていきたい」と口元を引き締める。
【工事概要】
▽工事名称=山梨文化会館耐震改修(免震レトロフィット)計画
▽所在地=甲府市北口2-6-10
▽発注者=山梨文化会館
▽設計・監理=丹下都市建築設計〔織本構造設計(構造)、建築設備設計研究所(設備)〕
▽施工=三井住友建設
▽構造・規模=SRC造地下2階地上8階建て延べ2万1883㎡
▽敷地面積=3858㎡
▽建築面積=3091㎡
▽工事概要=コア柱に設置する免震装置計68基(CLB32基、NRB16基、SnRB20基)、間柱に設置する剛すべり支承22基、外周梁にすべり板37基
▽工期=2015年6月1日-16年12月31日
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