近年、自然生態系がもつ多面的機能を利用した社会資本整備などを行うグリーンインフラストラクチャー(グリーンインフラ)という概念が注目されている。グレーインフラ(コンクリート構造物)の整備を担ってきた建設業界には、グリーンインフラの分野でも活躍することが求められており、グレーとグリーンのインフラをうまく融合させることができれば、これまで以上の整備効果を得ることも可能となる。大阪府立大大学院の増田昇教授に大阪におけるグリーンインフラの可能性などを聞いた。
--グリーンインフラの定義とその概念の背景は
欧米では1990年代からグリーンインフラや自然資本という考え方が広まり、多様な生態系サービスが評価されるようになってきました。日本では2000年代に入ってからこうしたことが議論されるようになってきましたが、その当初、国土交通省は都市環境インフラと呼んでいました。関西においては、06年に「近畿圏の都市環境インフラのグランドデザイン」がまとめられ、大都市の持続可能な生態系の維持・回復、人と自然とのふれあいの場の提供、ヒートアイランド現象の緩和などを目指す方針が示されています。
概念としては、物流や交通を中心とするネットワークである動脈型の都市インフラに対し、水や緑をベースにしたものを静脈型のグリーンインフラ、環境インフラと言えるでしょう。そのグリーンインフラは、緑化をはじめ、自然と触れ合えたり、生態系サービスが提供されるようデザイン・管理されたエリアをパッチとし、パッチ同士をコリドールで繋いでいくことでより大きな効果が得られます。
--関西はみどりが少ないと言われますが、グリーンインフラの整備状況は
例えば東京では、首都にふさわしい高規格の都市インフラがつくられており、歩道空間が広く、街路樹などの緑化も行われてきました。一方で関西は、道路などは機能的に整備されているものの、街路樹の整備などグリーンインフラの面では脆弱と言わざるをえません。公共事業で整備する都市基盤に余裕を持った品格を求めることはありませんでした。また、関西は隣接部に豊かな自然があるため、都会にいてもそれが目に入るなど自然を身近に感じられます。それが都市部にみどりが少ない原因のひとつかも知れませんね。
--大阪の一等地・うめきた2期開発では約8haもの「みどり」が整備される予定ですが、その意義は
単一の緑のパッチとしてうめきた2期だけではあまり意味はありません。これをきっかけに周辺地域でも同じような動きが起こることが大切です。うめきたの緑化をアメリカのセントラルパークになぞらえる人もいますが、セントラルパークは約300haですから、スケールがまったく違います。官民が連携して、うめきたの流れを淀川や大川まで波及させていけば、大きな効果が見込めるでしょう。
--グリーンインフラ実現には行政の理解も必要ですね
施設整備などにおいて、行政もイニシャルコスト型からトータルコスト型の考え方になり、グリーンインフラについても考えるようになってきましたが、まだ戦略的なビジョンがありません。地域地域にあるパッチを孤立させないという基本に沿ったビジョンを示すとともに、それを繋ぐコリドールに規制誘導などのインセンティブも検討すべきでしょう。
また、日本でグリーンインフラ整備が進まない一因に、不動産価値が高止まりしていることがあります。用地費の高騰がグリーンインフラの整備を難しくしています。ですから、道路や河川整備にあわせて緑地をつくるなど、グレーインフラ整備時にグリーンインフラも一体的に整備するようにしなければなりません。
また、日本は都市の中にも残された農地があるという恵まれた面があります。こうした空き地はバラバラで放置されると未利用地ですが、集約できれば自然再生ができる場所となります。
--建設業界への期待は
ゼネコンをはじめ、建設企業は屋上緑化や透水性舗装などさまざまな環境技術を開発し、その取り組みは評価できます。ただ、現状では最先端の環境技術は大規模なプロジェクトにしか導入されません。それを小規模なプロジェクトにまでボトムアップできるように協力してもらいたいですね。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら
0 コメント :
コメントを投稿