2016/05/22

【インタビュー】建築学会作品部門受賞者に聞く 『流山おおたかの森小・中学校』等の小嶋一浩さん、赤松佳珠子氏さん


 新たに誕生したまちで、住民のよりどころとなる場所をどう生み出すのか。CAt(シーラカンス&アソシエイツ)の小嶋一浩氏と赤松佳珠子氏は、住宅地として急速に発展するまちにつくられた小中併設校「流山市立おおたかの森小・中学校、おおたかの森センター、こども図書館」でその課題に対する1つの回答を示した。地域に根ざした公共建築として、審査員から「学校建築を語る上で常に参照され、また語り継がれていく建物」と高い評価を受けた同施設をどう設計したのか。公共建築に求められる機能や設計検討のあり方が変化する中で、地域の拠点となる場所をつくるために必要な建築家としての役割を聞いた。

 「これまでやってきた取り組みが一区切りついたような気がする」。小嶋氏は、受賞の感想をこう語る。1997年に日本建築学会賞作品部門を受賞した「千葉市立打瀬小学校」を始め、これまで多くの学校建築で地域とのつながりを模索してきたが、受賞作はそれらの経験の上にできた作品だという。赤松氏も「地域に開いた拠点はどうあるべきかに主眼を置き、これまでの学校建築の経験をすべて入れ込んだ」と振り返る。

まちづくりに先だって学校が建てられた

 これまで多くの公共建築に携わってきた両氏だが、今作では「公共の概念が以前と比較して大きく変化してきている」(赤松氏)ことを実感したという。特に公共建築の設計過程への参加や情報公開を求める市民意識については、「お仕着せの公共建築では良くないという思いが広がり、どうすれば本当に良い物がつくれるのか。地域のシンボルではなく、どう『場所』をつくるのかが問われていた」と小嶋氏は指摘する。今回の設計に際しても、繰り返し市民や行政を交えて議論を重ねた。
 一方で市民意識の変化に合わせて設計者に必要な合意形成の時間は増大している。「打瀬小学校の設計では市民とともに設計する先進性が評価されたが、いまではそうした取り組みはどこでも行われるようになり、『みんなでつくる』ことの難しさも生まれた」という。議論が紛糾して設計検討が長期化することも多く、赤松氏は「(市民から)意見を求めた上でデザインを決定するようになり、建築家としての職能も変わってきている」とみる。ただ、小嶋氏はこうした状況を「本来的には建築家の仕事ではないのかもしれないが、悪い流れではない」とも。特に地域拠点をつくる上では、市民が当事者意識を持つことが重要な役割を持つからだ。この作品においても、竣工後の見学会には想定をはるかに超える数の市民が訪れた。

地域とのつながりを模索した(撮影:吉田誠)

 デザインの良し悪しよりも論理的な説明による開かれた議論の重要性が高まる中で建築家が果たす役割について、赤松氏は「専門家としてコストや工期など発注者の求めるものを押さえた上で相手が思いもしないものを示すこと」と強調する。「相手の要求を抑えながら、新しいものを示す」ことが未来の建築や都市につながるという。
 小嶋氏が注目するのは、建築と土木の融合だ。使う言葉や考え方の異なる世界だが、「東日本大震災以降、建築と土木を分けている場合ではなくなった」と指摘し、両者を可能な限り近づける必要があると語る。今作の設計においても土地造成の段階から設計の検討に入り、コストを抑えながら地域特性に合わせて設計した。「20世紀的な大規模な開発行為ではなく、もともとそこの場所にあったかのように地域に馴染んでいく作品」が実現できたという。
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