3月末で東京理科大学教授を退任、名誉教授に就いた川向正人氏=写真=の記念講義が14日、千葉県野田市の同大学野田キャンパスで開かれた。「近現代の建築とまちの再考」と題した講義では、同大学での23年間を含む、35年間にわたる教育者、研究者としての軌跡を「『19世紀と現代』というテーマのもと、建築の設計と歴史の接点をたどってきた」と振り返りつつ、「いまは建築という狭い領域だけで建築を考えることができなくなっている。知的で生き生きとした部分の集まりを、どう現象させるか。この『現象』させるということが1つのキーワードとなる」と、自らのスタンスを語った。
川向氏は、近現代建築史の研究者としての歩みを語る中で、19世紀末ウィーンにおけるオットー・ワーグナーの功績について、「歴史主義の再現ではない、そこを脱した新しい様式の探求」にあったとし、さらにワーグナーに大きな影響を与えた19世紀歴史主義のゴットフリート・ゼムパーの建築思想に言及。歴史、幾何学、自然のいずれでもない「身体」という様式原理とともに、現象としての「壁」に着目した被覆論などを説明しながら、「建築がそこにあることによってまちや地域をつくっていく視点、視覚化、感覚を通して建築はもっと違った力を持つことを、20世紀のある時代から忘れられているのではないか。社会の底が抜け、人口が減少していく今、建築が果たす役割をもう一度思い起こさなければならない」と提起した。
その上で2005年の設立時から所長を兼務する、長野県小布施町との協働による「東京理科大学・小布施町まちづくり研究所」の10年余に及ぶ活動を紹介。特に町内の小中学生を対象とした「まちづくり次世代ワークショップ」は、地域性を理解するため、伝統的な景観要素を支える「素材」、その素材と深く結びついた「技術=テクトニク」を実体験するものであり、町内に常駐し、子どもたちをサポートする学生自身も徹底したフィールドワークと地元の職人からの指導を受けて修練・鍛錬に励む。そうした活動を通して、「できるだけ地域の素材と人々の手が加わり、それを可視化するようにつくっていく建築があるのではないか」「人の集まりがそうであるように、つなぐ・結ぶということを大切にする。大切にするとは、それに固有の“かたち”を与えること。茅葺き屋根はまさにつなぎの技術の集合体であり、土壁や木構造でも結びの技術が核となる。それがテクトニク。できるだけ目の前の素材を使う。それをかたちにする。そうしていけば建築は確実に変わっていく」などと持論を展開。今後も現代建築都市研究者であり小布施まちづくり研究所の所長として研究・実践に取り組む姿勢を表した。
建築家の芦原太郎氏や古谷誠章氏、多田善昭氏、郡裕美氏、 建築史家の伊藤毅氏、山名善之氏による座談会も行われた |
この日は、建築家の芦原太郎氏や古谷誠章氏、多田善昭氏、郡裕美氏、建築史家の伊藤毅氏、山名善之氏による「同時代を生きて」と題した座談会や、小布施まちづくり研究所の活動に対する16年日本建築学会賞(業績)と同学会教育賞のダブル受賞の記念祝賀パーティーもあり、和やかな雰囲気の中で建築談義の輪が広がった。
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