2015/04/13

【BIM】パラメトリックデザインで膜屋根を構造設計 竹中工務店×BentleySystems

愛知県豊田市に建設された自動車部品メーカーの福利厚生施設「やわらぎ森のスタジアム」。この設計施工を担当した竹中工務店は、意匠設計などに使われることが多いパラメトリックデザインを構造検討や生産段階で活用した。通常は鉄骨ファブリケーターが作成する部品加工用データや製作図まで同社が主体となって作成し、作業所の生産性を向上させた。

◇Generative Components

 曲面立体トラスの膜屋根が架けられたこの4800席のスタジアムは、建設当時、背後の山並みの景観を残すこと、工期1年未満で建設することが条件となった。
 スタジアムの高さを抑えるには、背後の高台を掘り込む計画にするとともに、低い屋根構造を検討する必要がある。しかし、低ライズのアーチ屋根を実現するには、外に広がろうとするスラスト力など構造上の課題を解決しなければならない。そこで、「パラメトリックデザインの手法を使い、さまざまなスタディモデルを実施した」と、同社の林瑞樹課長は振り返る。
 パラメトリックデザインでは、一定のルールを決めることで、形状を自動生成する。ここでは、ベントレー・システムズの生成的設計ツール『Generative Components』を使い、まず基準点の位置を決めてそれらを結ぶ曲面を生成、曲面を分割する数を決めてトラスの基準点を導き出す--といった要領でトラスの骨組みモデルを作成した。

低ライズ構造をパラメーターで検討


◇ゼネコンが部材の加工データ作成

 「手作業でのモデリングと異なり、ルールを変更すれば形状を変更できるため、検討パターンを増やして最適解を探り出すことができた。経験の少ない技術者にも最大限の検討ができる」。各モデルを構造解析にかけ、その結果を踏まえてさらにモデルを微修正する際の手数も少なかった。
 こうして設計されていく複雑な形状の建物を、短工期に完成させるためには、従来の設計生産プロセスでは間に合わない。そこで、設計、生産、協力会社が基本計画段階から連携。「すべての部品を正確に盛り込んだ鉄骨製作用の3次元モデルを竹中工務店が製作することで、生産性を向上させた」と林課長。
 設計段階から鉄骨、膜工事の協力会社を決定し、こうした取り組みの実現可能性や手順、部材配置のルールなどを詰めて検討した。「協力会社には高い専門性があるが、鉄骨と膜など部材間の取り合いの調整はゼネコンの役割。整合性がとれた状態のデータを協力会社に渡すことで、トータルでの合理化を目指した」

◇BIMがリスクヘッジ

 鉄骨製作用の3次元モデルには、ボルト孔や膜受けピースなどの部材も、配置ルールを決めてパラメトリックにモデリングした。「手作業でのモデリングに比べ、モデリング工数を削減、操作ミスを排除した」。ここから部材加工用のプレート切断データを2次元に並べ直す作業も自動化した。これに並行して製作図を作成し、アイソメ図などを添えて分かりやすく表現した。
 ゼネコンが工場における製作方法にまで踏み込むことで、協力会社からは精度の高い見積もりが出てくるが、加工用データや製作図に対する責任はゼネコンが負うことになる。一方、リスクヘッジを可能にするのもBIM。「3次元モデルによる納まり確認により製作図チェックの精度を上げられる」。こうした取り組みは「周囲の理解があってこそ実現できる」とも。



地組用の治具モデルと実物(下)
◇関係者をつなぐBIM

 工場加工段階では、治具まで竹中工務店がモデリングし、治具どおりに設置すればブラケットの設置位置が分かるようにした。地組み段階でも、治具の位置を3次元測量で正確な位置にセットし、その上で作業すれば施工精度が確保できるようにした。
 鉄骨工事を追いかける形で進められた膜展張工事でも、鉄骨工事がどの段階であれば650tクレーンで届くのか、ある時点で200tクレーンに交代した場合にブームが屋根鉄骨に干渉するか、といった検討に使った。
 林課長は、「施工図の担当者は、タイル割りの寸法を決める際など、頭の中ではそもそもパラメトリックに考えている。その考え方をコンピューターに伝えて作図作業を任せれば、担当者は人間でなければできない検討作業に集中できる。さらに、さまざまな関係者とBIMでつながることで合理化が図られる」と語る。

完成した低ライズの膜屋根構造(写真:エスエス名古屋)

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