2015/08/17

【インタビュー】「折れない心」の技術者になるには 大林組特別顧問・金井誠氏に聞く

「技術オタク」。自らをこう表現する人がどれほどいるだろうか。大林組の金井誠特別顧問は、「技術オタク」を公言し、その力を企業・団体活動で生かし、日本建設業連合会と国土交通省各地方整備局の意見交換会では、公共積算委員長として技術論のけん引役の一人であり続けた。後進の技術者に伝える魂を聞いた。

--1973年に入社してから印象に残っている仕事は
 「新入社員のころに手掘りの圧気シールドに携わり、こんな非人間的な工法で、人々の役に立つ安全・安心なインフラをつくって良いのかと思った。だからこそ、次の共同溝の工事では泥水シールドを採用し、密閉型のシールドが本来の形だと思った。大阪の平野川水系街路下調整池第1期工事で世界最大の泥水シールド工事に携わった縁で、東京湾横断道路会社に出向した際に、自分は『設計計算』はできるけど、『設計』ができないことを知った。構造物がどうあるべきかを考えて設計するということが分かり、一念発起して、設計とは何かを学んだ。同社の4年間で設計の神髄に触れた。その後大林組の東京湾横断道路工事所長として設計思想を施工に生かした。42年間の土木屋人生で最も意味がある時期だった。その経験を生かし、首都圏外郭放水路の現場では、水平コッター式継手を開発し、発注者に提案した。実績がなく採用まで1年かかったが、発注者からの疑問に一つひとつ答え、認めてもらった」

--どうすれば自信を持って提案し続けられる折れない心を持てるのか

 「基本に返ること。構造力学、土質力学、流体力学、コンクリート工学、統計学の5つがあれば、技術的にはほぼカバーできる。そこに立ち返り、とことん論理を通すことが大事だ。ただ、どこかで勘と度胸と度量(KDD)が必要になる。基本をとことん突き詰めた後に、自分の経験とKDDで決める。これができる人間を育てたい」

--土木本部長、副社長の時代の思いは
 「業界全体が金額、工期、技術のダンピング合戦で、一番きつい時期だった。低価格で取って後が苦しかったことも何度もある。ただ当時は、技術者が自分たちの思いをどう相手に分かってもらうかという面で良い試練になったとは思う。厳しい価格で受注しても、絶対に手を抜かず、何とか利益を出すようにと言い続けた。でも本来、そんなことをしてはいけない。やりがいのある仕事だからもっと胸を張って尊敬される仕事をしてほしい」

--契約方式でも設計から施工性を反映させる重要性を訴えてきた

 「民間の建設技術者が減り、苦しくなっているときに、非合理的な設計を続けない方が良いのではないかと思っている。調査や設計段階からつくろうとしているインフラの機能や要求される性能を詰めると、無駄なことをしなくて済む。工期が短くなれば、労働時間が短くなり、安全度も高くなる。その方法が設計段階でみすみす失われないようにと思い、ECI(アーリー・コントラクター・インボルブメント)など調査・設計段階でゼネコンの技術を使ってほしいと訴えてきた」

--今後の建設業のあり方は
 「いままでのように推移すれば、技術者がいまの27万人から10年後に約22万人になる。技能者はいまの344万人から260万人になる。建設投資も同じようにいまの50兆円から10年後に4割減ればマクロの数値では、技術者・技能者と建設投資がバランスするように見えるが、その背景に生産年齢人口の減少というさらに大きなうねりがある。産業間での技術者・技能者の奪い合いになる。いまの業界では人が来ない。業界と行政はいま、年収引き上げに向けて取り組んでいるが、その次は休日の確保だ。そして、将来の国の形をつくるための事業としての計画を見せなければ人が入って来ない」

--後進に残したい言葉は
 「考えることを厭(いと)うな。なぜその方法か、なぜそう考えたか、もっとよい方法はないか、自分に問い続けてほしい。若い人が忙しくて知的創造性を楽しめなくなっている。管理職側が、無駄な作業をなくすなど生産性を上げて考える時間を増やしてあげなければならない。管理には、絶対に必要な管理、してもしなくてもよい管理、してはならない管理の3種類がある。3つ目の管理は、社内の決まりや前例に頼ること。楽なので、管理職がどうしてもこの管理をしがちだが、管理する側が楽をすると、誰も何もしなくなる」

--今後の活動は

 「ずっと25-35歳くらいの技術者を集めて『金井塾』を開いてきた。ことしからはクラス数も1クラスから3クラスに増やして、毎月開いている。悪い例を見せて、おかしい点を指摘させ、自分ならどうするか、なぜそう考えたか、論理構成はどう考えるか、もっと良い方法はないか、考えることを繰り返す。技術は会社が持っているのではない。人が持っている。人を通して技術も、さらに良くしようという意思も伝承できれば、会社はサステナブルだと感じている。今後も人材育成の側面支援として続けたい。業界としては、日建連での活動を通じて、行政の委員会の委員になっており、まだ続けてほしいという要請があったので、大変ありがたい。そういった場でも、業界の側面を支援したい」

◆横顔

 激しい価格競争の時代に土木本部長を務めたが、「ダンピングで苦しめられた時に仕事を生き甲斐にしていたら、心が折れてしまう」と当時の心境を語る。日建連の意見交換会で各地を回っている際も、できるだけ現地の名産を食べたり名所を回ったりする。「やりがいを仕事に求めても、生き甲斐は仕事とは別のところに持っているべきだ」という若手へのメッセージに、仕事に厳しい金井特別顧問の素顔を見た気がする。
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