2013/09/09

【現場最前線】ゲリラ豪雨と闘う! 東京都の白子川地下調節池工事

近年、ゲリラ豪雨という言葉をよく耳にするようになった。1時間に100mmを超す局地的集中豪雨や、それに伴う都市型水害への対応は、急速な発展を遂げた成熟都市・東京の大きな行政課題になっている。地域の治水安全度を高める護岸整備など、河川改修もさることながら、要所で整備が進む地下調節池などの土木構造物は東京に欠かすことができない重要なインフラだ。いま、東京の地下では、大規模な洪水対策用のシールドトンネルが掘り進められている。


 
調整値施設群

◇見えない地下に「調整池の展示場」

 白子川地下調節池群--。東京都第四建設事務所管内の白子川中流域にある比丘尼橋上流調節池と同下流調節池、そして現在、整備が進められている白子川地下調節池がそれだ。3つの調節池を総称して調節池群と呼ぶ。
 この調節池群の特徴は、何といってもそれぞれが掘り込み式、地下式、トンネル式とタイプが異なる点だ。
 第四建設事務所の渡辺修工事第二課長は、「グラウンドとして上部を有効活用する掘り込み式(比丘尼橋上流調節池)、地下25mと深さを稼ぐことで約21万tの貯留量を誇る地下式(下流調節池)、目白通りの直下にトンネル式で整備する白子川地下調節池。都が建設する調節池の整備パターンがすべてここにそろっている」と話す。それは、さながら都における『調節池整備の展示場』の様相を見せる。
セグメントを坑内に搬入


◇1時間50mmに対応


 中小河川の洪水対策は、河道の拡幅や河床の掘削など、河川改修が基本となる。しかし、原則として下流側から進められる護岸の整備は長期間を要することが多い。
 また、河川が他県にまたがる場合など、複雑な条件下の中で、途中個所の整備が進まないケースもあるため、「こうした調節池が、河川流量のピークカットの役割を果たし、地域の治水安全度を高める」(渡辺課長)という。
 白子川地下調節池は内径10.0m(外径10.6m)、長さ3185mにわたるトンネル式の調節池。貯留量は21万2000m3となっている。取水施設は比丘尼橋下流調節池の内部にあるため、洪水は最初に比丘尼橋下流調節池に流入、その下流調節池が満水になると、連絡管を通って、白子川地下調節池に流れ込む仕組みだ。
 「上流調節池と合わせて、3つの調節池で1時間当たり50mmの降雨に対する治水安全度が達成
 できる」(渡辺課長)。
直径が10メートルもあるトンネルの入口



◇流域超え相互活用


 白子川地下調節池のシールドトンネルは、練馬区大泉町2丁目地内の東京外環自動車道大泉ジャンクション内の発進立坑を起点に目白通りの直下約40mの地下を、終点となる石神井川に向かって進む。
 その石神井川では、2010年7月5日に、集中豪雨により下流で床上浸水の被害が発生した。渡辺課長は「これを契機に緊急豪雨対策の一つのメニューとして、白子川地下調節池への石神井川からの取水を計画した。基本的には白子川流域の洪水対策がベースになるが、石神井川の浸水被害を軽減する効果も併せ持つ」と語る。
 時間雨量100mmを超す局地的集中豪雨への対応が求められる中、流域を超えて相互に活用する画期的な取り組みは、既存のインフラの機能を効率的かつ効果的に発揮させる方策の一つになる。検討課題にも挙がる、複数の既存調節池を連結する『広域調節池』の整備に先鞭をつけるものと期待される。
立坑


◇現場の最前線

 大成建設・佐藤工業・錢高組JVの施工で進む白子川地下調節池工事(その5)の現場を訪ねた。案内してくれたのは、第四建設事務所の立澤延泰工事第二課白子川地下調節池工事係長と大成JVの現場代理人を務める土橋功白子川地下調節池工事作業所長。
 さっそく深さ約50mの発進立坑をエレベーターを使ってゆっくり降りる。眼前には地下深く構築されているシールドトンネルが口を空けていた。内径10mものトンネル構造物の壮観さは、まさに土木が持つ魅力の一つだ。
 しばらくすると、クレーンで引き下げられたセグメントが到着。「これは鉄とコンクリートを一体化した合成セグメント。桁高(厚さ)も30cmと薄い」と立澤係長。内径10m以上(外径10.9m以下)、という施工条件下で、薄いセグメントを採用することは掘削する土量が減り、最終的なコストダウンにもつながるのだという。
 そのセグメントとともに、バッテリー機関車でシールドマシンが掘り進むトンネル最奥部を目指す。
 入り口から先端部の切羽まで約20分。「現場で働く一人ひとりが力を合わせて造り上げている。どういう心構えでいるかが大事。日ごろからのコミュニケーションを大事にしている」という土橋所長の言葉どおり、途中で作業員が次々とあいさつを交わしていく。
シールドの制御室


◇現場方針は「ABC」
 「1400R」「1500R」とシールドトンネルの側面に標示されているセグメントのリング数字が増える。ついに「口径10.8m泥水式シールド掘進機(長距離・高速施工対応型)」が姿を現す。マシン後方下部にあるエレクターが供給されるセグメントを着々と組んでいる。
 シールドトンネルと到達立坑を構築する同工事の入札に当たって、都建設局は技術提案型総合評価方式を採用。「1日も早く地域の安全性を高めるため、技術提案で工期短縮を求めた」(立澤係長)。
 工事契約後、掘削した土の受け入れ先が変更になるなど、東日本大震災が工事の進捗に少なからず影響を与えたが、発注者と施工者が一体で乗り越え、完成まで、あと一息というところまでこぎ着けている。
 土橋所長が掲げる現場方針は「ABC」。A(当たり前に)、B(ぼけっとしない)、C(ちゃんとする)というスローガンだ。このキーワードには「五感を働かせて、当たり前のことを当たり前に取り組む。基本的な現場のルールをしっかり守る」という意味が込められている。「東京都の方もよく現場にきてくれる。発注者の安全管理への姿勢が現場の作業員一人ひとりにしっかり伝わっている」と笑顔で話す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

1 件のコメント :

  1. 場所は練馬区ですか? 簡単な地図があると嬉しいです。

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