2013/09/15

【津波対策】清水建設が着々と進める津波BCPビル

アーチシェルター
清水建設が、建築物の津波対策に力を入れている。津波に耐える構造の新築ビル、既存建物向け改修工法、低コスト版の新築向けなどラインナップを充実させ、顧客の多様なニーズに応えていく方針だ。設計段階では、津波の波力などを分析する独自のシミュレーションシステムを活用して信頼性を高める。南海トラフ巨大地震などが懸念される太平洋沿岸地域などでは、同社の提案に対して顧客が高い関心を示し、「近い将来、実案件の着工が期待される」と一定の手応えも感じている。


◇インナービル方式

 現在、自治体やディベロッパーなどから高い関心が寄せられている津波避難ビルの一つが、同社が2012年10月に開発した「アーチ・シェルター」だ。楕円状の頑丈な外郭「アーチウォール」の中にインナービルを配置するという発想で、震度7クラスの大地震や20m級の大津波に耐える「津波BCPビル」をコンセプトとしている。
 開発当初、インナービルはアーチウォールから独立させ、免震構造の採用を基本としていたものの、顧客の声を踏まえてバリエーションを増やした。アーチウォールとインナービルを一体化させて免震構造を省いた低コスト版や、上部にマンションなどを配置する高層化バージョンがそれだ。中間免震をオプションとして選ぶこともできる。

◇改修でも対応  国土交通省の調査によると、全国で津波避難ビルに指定されている建物のうち4分の3が2-4階建てで高さが足りず、さらに全体の約18%は旧耐震基準の建物で耐震診断も実施していないという。新開発した「フレーム・シェルター」は、こうした避難ビルを改修して安全性を高めるために開発した。
 強度と高さが不足しているRC造建物を、鉄骨トラスの「メガフレーム」で補強しながらかさ上げするという発想。建物外周を取り囲むように取り付けるため、施工中でも建物内部への影響が少ない。コストと工期を抑え、改修のハードルを下げることで普及拡大を目指す。学校や病院などへの適用を見込んでいる。
フレーム・シェルター


◇解析データも自動作成


 同社は、中央防災会議の地形データを独自にデータベース化し、エリアをクリックすると解析データを自動作成するシステムを整備している。これまで2、3週間かかっていた津波シミュレーションが2、3日で可能になるなど大幅に効率化した。
 津波避難ビルの設計では津波力を評価して反映させるが、ビル風などの予想と同様、流体力学などに基づく高度な解析が求められる。さらに地域によって津波の想定高さが異なる上、津波の影響は地形や周辺の構造物などさまざまな条件によって変わってくる。
 このため同社は地図データベースに加えて、2次元と3次元のシミュレーションシステムをそれぞれ開発し、設計に反映させる仕組みを構築している。既存建物向けのフレーム・シェルターには2次元シミュレーションを、新築のアーチ・シェルターには3次元シミュレーションを使って事前に津波力を評価する。2次元は安全で合理的な設計を可能とする一方、3次元シミュレーションは津波力を直接評価できるのが特徴で、水理模型実験との比較によってその精度も検証済みだ。
街区内の建物に対して津波力を算定



建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

Related Posts:

  • 【中原建設】日大土木工学科3年生が情報化施工を見学! 若手技術者活躍の2現場  中原建設(埼玉県川口市)は日大生産工学部土木工学科3年生を対象に、建設業の意義や魅力を伝えようと、工事現場見学会を開いた=写真。現場は関東地方整備局の首都圏氾濫区域堤防強化対策事業の一環として同社が施工する「H27栗橋北地盤改良工事」と「H26釈迦堤防強化(上)工事」の2件で、同局利根川上流河川事務所の協力を得て、堤防強化対策の意義や最新の情報通信技術などを参加した学生16人に実感してもらった。  H27栗橋北地盤改良工事では、大型地盤… Read More
  • 「漆喰」 守り彩る現代の仕上げ材 商業施設、オフィスに広がり 姫路城の大天守保存修理事業 「伝統の仕上げ素材と思われがちだが、健康や環境への配慮が重要視される中で、まさに現代の仕上げ材と称しても過言ではない」と、漆喰への思いを熱く語るのは日本漆喰協会の行平信義会長(田川産業社長)。住宅に使われるケースがほとんどだが、近年は商業施設やオフィスでも漆喰仕上げにこだわる事例が登場している。現場では既調合漆喰が主流になってきたことから、左官工事の標準仕様「JASS15」では4月から改定作業もスタートした。 … Read More
  • 【前川建設】兵庫県下の自治体発注で初 コマツのスマコンPC200iを現場導入  前川建設(兵庫県加古川市)は、兵庫県高砂市内で進めている法華山谷川水系法華山谷川河川改修工事(兵庫県発注)で、コマツの3次元マシンコントロール(MC)バックホウ「PC200i」を導入している。兵庫県下の自治体が発注した工事でのMC建機導入は今回が初めて。2月26日には県や周辺市町、近畿地方整備局などの職員を対象にした導入事例発表会を現地で開いた。  PC200iはGNSS(全地球測位システム)アンテナと基地局から得た刃先位置情報、施工設… Read More
  • 【ルミネ】新宿駅のショッピングがもっと便利に 「エキナカ・エキソト」4/15オープン  東日本旅客鉄道(JR東日本)グループのルミネは、JR新宿駅直結の商業施設「NEWoMan(ニュウマン)」に設けるショッピングエリア「エキナカ・エキソト」を15日にオープンする。オープンに先立ち13日には報道機関向けの見学会を開き、個性あふれる店舗や商品を紹介した=写真。  エキナカ・エキソトは、JR新宿駅新南口の改札内外にレストランやバー、和・洋菓子店、ベーカリーなどをそろえる。大人の女性をターゲットにしたニュウマンのコンセプトに沿った… Read More
  • 【建築】あえて背面キッチン! 女性チームがつくるマンション「ブリリア・ ブルーモワ」 “働く女性たちのたくさんの笑顔や才能がしなやかに咲き誇る”という意味が込められた東京建物の「Brillia Bloomoi/ブリリア ブルーモワ」。同社の女性社員が中心となって進める、働く女性のニーズに焦点を当てた分譲マンション開発プロジェクトだ。イベントやフェイスブックなどを通じて働く女性の声を集め、「働く女性と共に考え、共に創る『共創』」のプロセスのもと、対話型の商品開発に取り組む。写真はプロジェクトメンバー。前列中央が野口氏、左が渡瀬… Read More

0 コメント :

コメントを投稿