2015/06/06

【現場最前線】多角形のコンクリ打ち放し、柱は本実仕上げ…難条件に高度な技術で挑む 長谷川体育施設本社ビル建替現場

東京都世田谷区の国道246号沿いで、中間免震を採用したコンクリート打放しのモダンなオフィスビルの新築工事が進んでいる。型枠工事の総量3381㎡のうち、5割以上の1760㎡がコンクリート打放しの上に、8階建ての各階天井は、国道246号側の一部が起伏に富んだ多角形的な打放しとなるため、施工を担う飛島建設の中矢孝久所長は「試行錯誤の末に櫛型枠とボックス型枠で立体的な造成を実現した」と振り返る。

 敷地は正面の北側が国道246号、東側が幅2.9mの区道、西側が5.7mの区道、南側と一部西側が商店・事務所ビルに接し、首都高速道路と東急田園都市線にも近接するため、事前協議に約2カ月を要した。国道246号は交通量が多く、一時駐停車帯も少なくないため、西側の区道が唯一の荷揚げスペースという制約条件の中、屋上のジブクレーンと西側のロングスパン工事用エレベーターなどを使って資機材を搬入している。

立体的な天井と本実仕上げの柱
ただ、コンクリート打設時のみは、国道にコンクリートポンプ車とコンクリートミキサー車を配した。内外壁ともにコンクリート打放しに加え、各階天井の正面側が起伏に富んだ多角形的な造形で、1階の柱4本は型枠の木目を転写させる本実(ほんざね)仕上げとなるため、選りすぐりの職人を配した。「依頼した協力会社にも対応できる職人は2、3人しかおらず、その中で最も技術のある職人を確保できた」と笑みをこぼす。
 起伏に富んだ天井をコンクリート打放しで表現するのは難しく、「試行錯誤の末、フラットな型枠の中に櫛を入れ、その上にベニヤ板を張って起伏のある型枠をつくり、コンクリートを打設した」。ただ、櫛型枠だけでは表現しきれない部分もあり、「表面に角度が出るよう工場で製作したボックス型枠も使って立体的な表面を実現した」と明かす。

起伏のある天井を実現した櫛型枠
中間免震装置は、1階と2階の間に設置。積層ゴム4基、鋼製ダンパー2基、オイルダンパー4基で、免震機能を確保するため、1階下にもオイルダンパー1基を配した。工事期間中は振動吸収の揺れによる仮設足場の倒壊を防ぐため、免震機能が働かないよう1階と2階を固定し、安全を確保している。
 外壁は、躯体の鉄筋コンクリート、押出成形セメント板の「アスロック」、カーテンウオールの3種類で構成し、「種類が異なるため、それぞれに高い精度が求められる」。また、3階から上は逆梁構造となっており、資機材を置くスペースがないため、「足場板を置いてフラットなスペースにしてから作業し、その後に足場板を外して配管設備工事を行っている」と説明する。
 中矢所長はこれまで、大小さまざまな用途の建物に携わってきた。「建物をつくって終わりではなく、竣工後も施主を始め使用する人たちが満足できる建物づくりを心掛けている」と飛島建設のキャッチフレーズである“建ててから始まる真のお付き合い”を体現。「それを若い後輩たちにも伝えていきたい」とも。難条件が重なっている現場だが、中矢所長の下で働く、入社16年目の吉田榮主任は「いい経験をさせてもらっている。所長には学ぶところが大きい」と感じている。
 進捗率は約40%。5月25日に上棟し、現在は内装と設備配管などの工事を行っている段階。10月の引き渡しに向けて「精度の高い、品質の良い建物を安全に施工していく」と気を引き締める。

【工事概要】
▽発注者=長谷川体育施設
▽プロジェクトマネジャー=東京急行電鉄
▽設計・監理=東急設計コンサルタント
▽構造設計・監理=Arup
▽施工=飛島建設
▽規模=SRC造8階建て延べ1197㎡
▽敷地面積=228㎡
▽建築面積=162㎡
▽工期=2014年8月2日-15年10月9日
▽工事場所=東京都世田谷区太子堂1-4-21
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

Related Posts:

  • 重さ245トン!首都高の橋桁を一晩で撤去 汐留の八重洲線で 巨大ドーリーが桁を運ぶ 首都高速道路会社は、八重洲線架替工事に着手した。29日深夜、東京都港区の汐先橋交差点と交差する八重洲線北行きの橋桁を多軸式移動台車を使って約3時間30分の短時間で一括撤去した。首都高本線で既設の高架橋を撤去するのは今回が初めて。約150人が作業に当たった。  首都高は、同交差点地下に東京都が進める都市計画道路環状第2号線事業のトンネル区間があり、八重洲線橋脚の基礎構造がトンネル建設の支障となることから、都から工事を受… Read More
  • 現場リポート 大成建設が進めるボスポラス海峡横断鉄道建設工事 ボスポラス横断トンネルの内部  アジアとヨーロッパが交差する街、トルコ・イスタンブール市で、国民が150年もの昔から夢見てきた世紀の建設プロジェクトが、待望の完成に向け着々と進行している。大陸を分断するボスポラス海峡の海底に鉄道トンネルを通し、同市の東西を結ぶ。これに挑むのは、世界各地で“地図に残る仕事"を手掛ける大成建設だ。世界有数の海流速を攻略し、夢を実現へと導く。現在の工事進捗率は約80%。土木工事はほぼ完了し、トンネル内部の設備… Read More
  • 巨大フローティングドックで復旧工事 仙台塩釜港C防波堤 宮城県塩竃市の塩釜港に浮かぶ巨大構造物が注目されている。東日本大震災で被災した防波堤を復旧するためのケーソンで、ブルーのフローティングドック(FD)の上で製作が進められている。FDにはタワークレーンが搭載されており、まるで海上にビルを建設しているように見える。ケーソンの製作は、みらい建設工業が担当。6月末までに完成し、7月中旬には被災した防波堤に代わって据え付けられる予定だ。  製作しているケーソンは、津波の影響で先端部分が21度傾いた仙… Read More
  • 現場レポート・東京駅丸の内駅舎復原工事 最新技術と歴史が融合 光が差し込むゲストラウンジ  東日本旅客鉄道(JR東日本)が進める「東京駅丸の内駅舎保存・復原工事」が、10月のグランドオープンに向けて内装工事の最終段階に入っている。施工は鹿島・清水建設・鉄建JV。着工から5年。東日本大震災に伴う資材不足などにも直面したが、多くの困難を乗り越え、首都・東京の表玄関に、歴史と風格を感じさせる赤レンガ駅舎が創建当時の姿を現す。 明治建築界の大御所、辰野金吾が設計した東京駅丸の内駅舎は、1914(大正3)年に創… Read More
  • 一気通貫でBIM活用 大林組の「(仮称)青山大林ビル新築工事」 BIMを活用して建設が進む青山大林ビル 東京・表参道沿いに立地し、“ハナエ・モリビル"の愛称で親しまれてきた青山大林ビルが装いも新たに生まれ変わろうとしている。大林組が独自に開発した数多くの最先端技術を惜しみなく投入し、その施工に当たっては、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)のデータをフル活用している。初採用の技術でも3次元の仮想空間上で施工手順などを詳細に確認できるため、森田康夫所長は「BIMを設計から施工まで一気通貫… Read More

0 コメント :

コメントを投稿