2015/10/24

【最終回・2020以降の建設学】発注者が求める「営みづくり」「ものづくり」 が融合した総合的連動体とは


 設計図どおりに製造したとしても、求める性能は出ない。建設業界での話か? とついつい錯覚してしまうが、これは自動車業界の通説である。設計と生産現場が一体となり図面各所の部位や製品がどのように作用し、どのような外的要因が働いて、それをどう制御できるかをあらかじめ想定し、生産現場が蓄積してきたさまざまな技術ノウハウや人的ノウハウを還元することによって、これを克服してきた。世界一の品質と性能を誇る自動車業界はこうやってその地位を確立してきたのである。

 近年、建設業界にもこの考え方が勢いよく流入している。民間事業で盛んに導入されるようになった性能発注方式や、公共工事品確法改正を機に公共事業で採用が著しいデザインビルド(DB)方式などがその典型である。勢いよく流入しているのには明確な理由がある。発注者(事業者)にとって、とても便利だからである。上記のような設計と生産の相互精練作用はもちろんのこと、早期に事業を確定することができるので、その後のファイナンスや投資タイミングの見通しが立てやすくなるからだ。ただし発注者側で専門分野に精通したマネジャーがいなければ思わぬ痛手を被ることにもつながりかねない。そのためにCMrやPMrが同時に必要視されているのである。
 これは何を意味するか? 要するに発注者の選択肢が増えたということである。従来の方式に加え、さまざまな建設生産方式が登場したことで、それらが互いにしのぎを削り合い切磋琢磨することによって、事業の適性に応じた最もふさわしい形に収斂していくのなら、発注者にとってはそれがまさに理想なのである。それでも、これは私たちが属する建設分野の中だけでの話だ。
 それよりも、発注者はもっと大きな悩みを抱えている。事業そのものの環境変化のスピードが年々早くなり、3-5年で激変するような時代が到来してしまったのである。その中で発注者は、臨機応変に変化するような体制で自らの事業に向き合い、そこに施設建築が必要ならばそれを迅速に構築して、すばやく運営につなぐ解決を余儀なくされているのだ。だから発注者が必要としているのは、事業戦略や経営戦略を含んだ「営みづくり」と施設戦略の「ものづくり」を巧みに融合したオールマイティーな完成形なのである。デザインやプランあるいは完成直後のフォルムだけに注力するのではなく、事業運営や施設運営を担う総合体として施設建築をとらえ、これらを有機的に緊結統合してくれる救世主を発注者は待望しているのである。
 前回述べたインテグレーテッド(集約・統合)化は、なにもハードである施設建築だけに起こっているのではない。ちょうどアップル社のiPhone・iPad・iPod(ハード)と、iTunes(ソフト)の関係性のようなものだ。ミニマリズムを体現した美しいフォルムのハードも凄いが、iTunesを筆頭に膨大なビッグデータを抱くソフトを縦横無尽に操れる世界にこそ、その真髄がある。このソフトが世界の放射的な拡がりを束ねていく姿は事業のインテグレーテッド化とでも呼ぶべき動きであり、これから先の未来を占う上で最も肝心な要素となるであろう。将来は、これにバーチャルリアリティーやロボット技術などが加わり、ソフトとハードを横断的に橋渡ししていく役割を担っていくに違いない。
 発注者は、私たちにブツ切りした技術の集積を求めているのではない。創造行為から事業戦略/施設戦略策定・企画・設計・工事施工、そして運営に至るまでの、建設生産全体を幅広く解決してくれる総合的連動体を求めているのである。私たちは、これら隣接領域(発注者からみればこちらが本筋)をも巻き込んだ一連の流れをプラットフォーム化し、これによってプロジェクトを遂行していくような総合技術を、もっともっと整備し構築していく必要があると確信する。
 発注者側から観た景色は、私たち建設業界の側から観ている景色とは、ずいぶんと違う世界が拡がっているのではないだろうか? だとしたら、私たちの進化の余地はまだまだ数多く残されているはずである。
(山下ピー・エム・コンサルタンツ 川原秀仁社長)
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