2015/10/12

【建築】森の風が通り草花に包まれるオフィス 環境配慮も抜群のコープ共済プラザ


 「ハーブの香りが広がり、それが働く上でのリラックス効果にもなっています」。東京都渋谷区で日本コープ共済生活協同組合連合会の本部として「コープ共済プラザ」が運用を始めたのはことし5月。行武麗子広報グループマネジャーは本部ビルの感想をそう表現する。オフィス内には設計者の計算どおりに、風が通り抜けている。


 建設地には南西に明治神宮の森が広がる。設計を担当した日建設計の羽鳥達也設計部主管は「ここは森からしみだす風によって気温が東京都内より2、3度低い。東西に窓を設け、風の通り道を確保することを設計の基本に置いた」と説明する。
 同社が計画の依頼を受けたのは東日本大震災の記憶が残る2011年11月。施主からはBCP(事業継続)に加え、省エネ対策も含め震災の教訓を生かしてほしいと求められた。窓の開けられないオフィスが多い中で、気軽に自然換気ができるよう、あえてマンション用サッシを取り入れるなど風へのこだわりが随所に見られる。

植物が建物を包み込む「グリーンブラインド」

 規制の厳しい場所でもあり、緑化対策が強く求められたが、屋上に太陽熱温水機器を置くため、壁面緑化を全面的に取り入れることを決めた。火災時の避難路にも有効である点でバルコニーを設け、その先端にワイヤーや鎖樋を約3700本配置した。バルコニーに植えた草花季節は8種類。季節ごとに違った色合いの花が楽しめる。日建設計はワイヤーや鎖樋を使って草花が建物全体を包み込む効果を「グリーンブラインド」と称している。

職場はグリーンブラインドに包まれている

 風による省エネの効果も如実に表れた。窓を開ければ「6月末でもエアコンなしで過ごせる」ほどだ。当初は自然換気を行うと、風とともに周囲の雑音も入ってくる懸念があったが、「外の音が逆に心地良さになっている」と施主の反応も上々だ。グリーンブラインドは西日も和らげ、まるで草花に包まれて仕事をしているかのような印象を与えている。
 建物1階部分は、東西に風が抜けるようにピロティ構造を採用した。そこから風を抜くことで、周囲へのビル風を軽減し、明治通り側に涼しい風を送り込む効果もある。まさに風と向き合う建築だ。羽鳥氏は「グリーンブラインドをどこまで受け入れてもらえるか不安もあったが、これからの新たな建築の仕掛けとしての可能性を強く感じた」と手応えを口にする。
 コープ共済プラザはSRC・S造地下2階地上8階建て塔屋1層延べ8652㎡。設計は日建設計、施工は建築をフジタ、設備をきんでん、空調熱源を前川製作所が担当した。躯体から設備に至るまでさまざまな省エネ技術が盛り込まれ、通常のオフィスに比べ、CO2排出量をほぼ半減できる環境配慮建築としても注目されている。
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