2015/10/27

【建設論評】〝マンション基礎地盤〟の対応策を考えてみる

横浜のマンション傾斜問題は同じ市内において2年連続で生じた問題でもあり、大きな注目を集めている。その原因である基礎の沈下は、目に見えない地盤を相手にしていることから、発覚したときには後戻りができない最悪の事態に至ることが多い。
 今回の問題の本質は、最終的には技術者倫理に行き着くが、防止策としては施工管理の厳格化やトレーサビリティの確保などが議論されることになるであろう。これらに対し、やや別な視点での対応策を考えてみたい。

 軟らかい地盤が堆積している場合、建物の基礎として一般に杭が採用される。その杭を支えるのは砂礫層や岩盤などのような堅固な支持層である。ところが、横浜に限らずこの支持層が出てくる深さが必ずしも一様ではなく、谷のようにえぐれていたり、全体が傾斜していたりする。
 もし、施工中に支持地盤が予想より深くても杭を簡単に継ぎ足して調整することができるのなら問題は少ないが、工程の遅れを許容できるか、工費の増額が許されるかという問題が生じる。さらには、杭の継ぎ足しが可能か、継ぎ足し部の強度は大丈夫かなど技術的な問題もあり、実際には相当苦労すると推察する。
 そのように考えると、支持層の深さの精度を高めることが本質的に重要であるといえる。そうすることにより事前に杭の長さを実態に近いものに設計できることになる。今回のような事故は、それがたとえ人為的であっても、調査の精度を高めることで被害をより軽減できる可能性があったと考えられる。
 支持層の深さのばらつきを始めとして目に見えない地盤の性状は、安全な設計を行う上でのリスク要因であると言える。そして、まれとはいえ上述したような事故が生じることを考慮すれば、リスクヘッジとしてより詳細な地盤調査を行うことが有効である。例えば、ボーリングを増やすか、あるいはより安価な原位置試験を多く実施しボーリングを補完するなどの方法が考えられる。調査のコストは増大するが全体の工事費からみると小さな額である。このことを十分に顧客に説明すれば理解してもらえることであろうし、逆にそのリスクヘッジが安全性を高めるための付加価値としてPRできるのではないとも考えられる。
 また地盤調査結果やその評価が妥当かどうか、また残余リスクとして何が残されているかを第三者の意見を求めることも極めて重要と考える。
 一般論として、1級建築士で地盤に詳しい技術者は極めて少ないというのが現実である。さらに、建築のための地盤調査においては特殊な例を除き単純な調査結果を示すことで十分とされる場合が多く、地盤の性状に関する考察は十分ではない。そのため、その地盤の有するリスクが不明確なまま設計が行われることも多い。
 このような問題に対処する方法として、最近注目されている地盤品質判定士を第三者評価者として活用するのも有効な方法である。(公)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

0 コメント :

コメントを投稿