橋脚高さ日本一となる東海北陸自動車道の「鷲見橋II期線」工事が、三井住友建設の施工で本格的に動き出した=写真。構造材として高さ125mのスレンダーな橋脚を支えるのは最大径51mmの超高強度ねじ節鉄筋。製造する共英製鋼の白石愛明執行役員名古屋副事業所長は「ようやく道を切り開くことができた」と感慨深げだ。土木構造物に採用される高強度鉄筋はこれまで高炉メーカーの独壇場だった。「われわれ電炉メーカーでも対応できることを広く知ってもらいたい」と強調する。
現場に出荷したネジ節鉄筋は超高強度製品「USD685B」。鉄筋の降伏強度は685ニュートン(N)に達し、しかも鉄の結晶粒が平均直径5.5ミクロンという細かさ。これまで685Aという結晶粒9.4ミクロンの製品は提供してきたが、685Bは高炉メーカーに限定され、鉄スクラップを使う電炉メーカーにとっては製造時の成分調整などが障害になり、超えられない壁と言われていた。
最大径は51ミリ |
降伏強度が685Nと同じでも、結晶粒の細かさによって、鉄筋の性能は大きく違ってくる。685Aは鉄筋を100mm引っ張った場合、1.4%(14mm)伸びた状態の強度が785N以下だが、685Bでは755N以下に抑えられる。これは力が加わった後の鉄筋が元に戻ろうとする力を示す数値であり、よりN値が低いBの方が降伏状態になりにくいということだ。
製造工程は、時間との勝負だ。鉄スクラップを溶かした後、30分以内に成分を分析し、調整を行う。過去の膨大な成分データをもとに、最適な調整数量を把握し、現場作業員が経験に基づきながら配合を進める。白石執行役員は「ここで手間取ると、製造コストがかさんでしまう。データ力と現場力が下支えし、より効率的に計画性能を発揮している」と強調する。
難しいのは、次工程の粒度調整だ。「685A(9.4ミクロン)と685B(5.5ミクロン)の違いを出す部分には、技術のノウハウがたくさん詰まっている」とは小寺耕一朗ネジ鉄筋部長。鉄の塊を延ばして鉄筋をつくる際、独自の制御冷却によって圧延する製法を取り入れた。速度、温度などを微妙にコントロールすることで、より結晶密度の濃い鉄を提供する。
これまでも同社は685Bへの挑戦を続けてきたが、思うような結果を得ることができず、一時中断していた。再開したのは2014年8月。すべての工程を再検証し、安定した性能確保にめどを立てたのは15年2月ごろだった。施工者の三井住友建設への提案と、発注者である中日本高速道路会社との設計協議の中で「性能保証ができれば高炉メーカーに限定しないという判断をもらえた」(小寺部長)ことが大きかった。
高強度ねじ節鉄筋865Bは計830トン使われる |
既に685Aは、土木で5件、建築で十数件のプロジェクトに採用済み。近年は発注者がより高い性能を求め、685Bを要求する傾向が強まっている。現在の土木工事では施工中の案件も含め、685Bが設計条件になっているプロジェクトが全国に少なくとも4、5件は存在している。白石執行役員は「これからが勝負になる」と、鷲見橋II期線の採用を足がかりに建設コンサルタントやゼネコンへの提案営業を本格化する方針だ。
現時点の橋脚高さ日本一は隣に君臨する鷲見橋I期線の高さ118m。ここにも685Bの超高強度ねじ節鉄筋が使われたが、製造先は高炉メーカーだった。現場ではII期線の橋脚建ち上げが本格的に動き出した。工期は18年度末まで。II期線の橋脚3本には、685Bのねじ節鉄筋が計830t使われる計画となっている。
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