2015/10/26

【インタビュー】「あなたと建築したい」! ポップに業界の魅力を発信する「esquisse」

「建築業界の広告塔になりたい」--。吉備友理恵さん(東大大学院)、都築響子さん(東京藝大)で構成する学生建築ユニット「esquisse(エスキス)」は、イベントの企画・運営などを通じて建築業界の魅力発信に取り組んでいる。建築コストにばかり注目が集まり、その社会的役割への関心が低迷している中で、「建築と人を近付ける」ことを目標に活動する彼女たちは、何を思い、どこに向かおうとしているのか。建築分野の内側と外側を分ける境界をまたぎ、建築をPRする意味を聞いた。

--エスキスの活動を始めた理由は
 「大学で建築を学んでいる時は面白いことをやっている学生でも、就職する時には建築と関係のない業界へ進んでいた。それを見て、一般社会の方々にもっと建築について知ってもらい、図面を引くだけではない建築にかかわるプロセスや知識が生かせるような社会にしたいという思いが湧いた」
 「社会で建築の力を発揮する機会が増えればもっと面白いものづくりやプロダクトができるはずなのに、建築分野のことは一般社会に全く知られていない。そんな状況を変えたかった」
 
--建築分野で働く若い世代が減少している
 「身の回りでも、建築設計事務所など建築関連企業に就職しても労働環境の悪さから辞めざるを得ない状況に陥る人は多い。設計やものづくりにやりがいがあっても、賃金の安さと忙しさから生活ができないからだ。私たちは“建築は楽しい”という思いを学生や社会に伝えていくことで、これまで建築分野と縁のなかった人や業界に建築とのつながりをつくり、建築に携わる人間が正当な評価を受けられるようにする必要がある」
 
--建設業界への期待について
 「建築に対して高い能力と意識を持った若い世代は多いが、そのほとんどが建設業に就職しようとはしない。建設業が取り組む新しい挑戦をもっと積極的に外部に発信してほしい。建設業で働けば面白い事例に携われるということが分かれば、そこに関心を持つ若い世代は必ず増えていく」

--どうやって魅力を発信するのか
 「まちづくりやインテリアに関心を持つ人は多いが、建築そのものに意識を向ける人はまだまだ少ない。衣装や(建築模型を頭に乗せる)“頭上建築”などを通じて自分自身を広告塔として活用し、なるべくポップで分かりやすく建築の楽しい魅力を伝えたいと考えている。私たちの活動への理解が得られなくても、まずは建築に興味を持ってもらい関心を高めることが重要だ。ツイッターやフェイスブックといったSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用し、専門的な内容よりも建築の面白さを自分自身から体現するようにしている」
 「家や都市だけでなく、建築は暮らしのすべてのものにつながる営みだ。建築に関心がなくとも、ファッションや食べ物などに関心を持っている人は多い。ファッションと建築、食品と建築、旅と建築など、それぞれの好きなものと建築を結びつけることで、建築に関心を持つ人はさらに増やしていけるはずだ。『建築する』とは“場をつくる”ことだと考えている。建築と異分野とを融合することで、多様な人々を受け入れる場をつくりたい」

--今後の活動について
 「業界内部の人と外部の人をつなぎたいと考えている。一般の方々に対しては社会問題に対して建築に何ができるのか、業界内部に対しては建築がいかに社会から乖離(かいり)しているかという警鐘を鳴らし、業界を内外から盛り上げる提案をしていく」
 「また、これからはただ建築の楽しさを伝えるだけでなく、建築的な考え方を分かりやすく言語化し、専門外の人と共有したいと考えている。『図面を描く』だけの役割と思われている建築分野に対する社会的なイメージを刷新し、そのデザインや企画のロジックを建築分野以外で生かせるような環境を整えたい」
 「長期的に活動を継続するためにも、こうした建築分野の内側と外側をつなぐキュレーターとしての活動をビジネスとして確立する必要がある。大学を卒業するまでの1年半の期間を活用し、法人化を含めた具体的な体制を整えていく。私たち自身が建築分野の広告塔兼演出家として社会から認められるよう、引き続き活動していきたい」


【横顔】 
 「あなたと建築したい」を基本コンセプトに掲げ、建築的知識と技能を活かした場づくりを進める。日本建築学会が主催する2015年度建築文化週間では、学生ワークショップの企画・運営のすべてを担った。30日には、東京都渋谷区の3Dプリンターを利用したものづくりカフェ「FabCafe」のハロウィンイベントに参加する。若手の人材不足が懸念される建設業界だが、企業だけでなく学生の中からも人材流出や社会の無関心といった業界の課題に反応した世代が表れている。
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