「テンセグリティ」構造を説明する平沢准教授 |
◇物理シミュレーションで構造評価
研究室の前に吊り下げられた、アルミパイプの局面屋根。よく見ると、パイプ同士は互いに接していない。パイプの両端から3本ずつ飛び出したスチールワイヤーで結合している。圧縮材と引張材で構成する「テンセグリティ」構造だ。ことし学生たちが製作した。
まず、3次元CADで基本要素をモデリングした上で、全体を設計。さらにビデオゲーム用の物理シミュレーターで構造を評価した。部材加工では、ワイヤーを通す穴の位置がパイプごとに異なるため、穿孔位置を示すシールを印刷して貼りつけ、ガイドにした。組み立て作業では、製作したユニットごとにAR(拡張現実感)で設計モデルと比較し、出来形を検査した。
「コンピューターの支援なしでは、設計そのものが難しい上に、わずかな施工誤差が全体に影響するほか、完成直前まで構造が不安定なため、製作も難しいはずだ」と平沢准教授。
パイプにはシールで穿孔位置を決めた |
◇建築とプログラミング
学生たちがここまで取り組めるのは、数年間にわたりリテラシーを身につけてきたため。基本となる力は、プログラミング能力だ。平沢准教授は、学科の講義でC言語によるプログラミング、ゼミ生らへの講習会でGDL(幾何記述言語)によるアルゴリズミックデザインを教えている。
「情報処理の専門教育とは異なるため、単に体系的に教えるだけではなく、建築系の学生が興味を持てるように、形状やものづくりに直結した課題に取り組んでもらうようにしている」
こうした基礎を学んでいれば、ARや写真計測による施工支援の研究や、建築物のデジタルアーカイブ化の研究など、「さまざまに応用が利くようになる」という。
実際の施工現場などに、リテラシーを持った人材がいれば、BIMの導入にも役立つ。例えば、現場所長がBIMの理念に共感したが、3次元CADの基本性能ではモデリングできない部材があるという場合、それだけの理由で導入を断念してしまいかねない。そこに、GDLなどでモデリングできる人材がいれば、そうしたパーツを補うことができる。
3Dプリンタで書き出した五重塔 |
◇五重塔をデジタル化
モデリングが難しい部材の最たるものは、日本の伝統建築だ。平沢研究室では以前、千葉県市川市にある法華経寺五重塔の部材を、現地で写真計測した上で、すべてパラメトリックデザインでモデリングした。
さらに、そのデータを基に、数値制御加工機(NCルーター)で部材を切り出した上で模型を組み立てた。3次元プリンターでも模型を製作した。「作業は大変だったが、伝統建築や複雑な建築のモデリングに応用できる」
また、3次元CADでも工程管理ソフトでも、市販のアプリケーションを使っているだけでプログラムやデータの基本構造が分かっていなければ、「中身はブラックボックスも同然だ」と平沢准教授。今後は、BIMソフト間のデータ連携など、基本的知識が求められる場面が増えてきそうだ。
平沢研究室では、課題を“施工"までやり切ることがモットー。「ものづくりの勘や想像力を身につけるためだ」という。研究室で使う家具も、卒業生が手掛けたものだ。バーチャルな既製ソフトを単に使うのではなく、「ITリテラシーを備えることによって、ものづくりを支援できる研究と人材育成の輪を広げたい」と展望する。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
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