2013/10/10

【建築】「五輪は選手が主役、建築は“祭りのやぐら"」 ロンドンの競技場を監理した山嵜一也氏

「オリンピック・パラリンピックは建築のみによって完成するものではなく、アスリートと運営が一体になることで完成する。2020年の東京五輪では建築の優先順位を考え、議論する必要がある」と建築家の山嵜一也氏は語る。山嵜氏は2012年に開かれたロンドン五輪で会場建設に携わり、馬術競技と近代五種競技を行った「グリニッジ・パーク」競技場の現場監理を担当した。山嵜氏は「成熟都市であるロンドンと東京には共通点が多い」とした上で「特に建築の扱いについては参考になる」と強調する。


 ロンドン五輪は「コンパクト」や「サステナブル」をテーマに掲げ、容易に撤去できる小規模なスタジアムを整備するというコンセプトを採用した。既に都市として完成しているロンドンでは、五輪をきっかけにインフラや建築を整備する従来の開発モデルを導入する必要がなかったため「頑張らない建築」という方向性をとったと山嵜氏は指摘する。「われわれは建築に注目しがちだが、五輪はアスリートのものであり、そこに住む人のものであり、あらゆる要素が合わさって完成するもの。成熟都市の五輪では、建築をどのレベルに置くのかが重要になる」という。

◇グリニッジ・パーク


 山嵜氏が担当したグリニッジ・パークでは、公園の芝生の上に鉄パイプで客席とアリーナを組み立てる簡素なデザインで2万人規模の競技場を完成させた。「ロンドン五輪では、その建築が本当に必要なのかを真剣に考えた。その結果、英国では馬術は大切な競技だが、五輪の期間中だけ限定的に使えれば良いと判断し、仮設の競技場で行った」という。東京でも、競技場の規模や五輪後の活用法については真剣に検討する議論する必要があると力説する。
 ロンドン五輪ではグリニッジ公園やバッキンガム宮殿、ロンドン市街地などの英国らしい場所を利用して数多くの仮設競技場を建設、魅力的な空間・場を生み出したが、その多くは既に撤去された。メーンスタジアムも地元のサッカーチームが本拠地として取得し、近く大規模な改修が行われる見込みだ。

◇成熟社会としての五輪

 五輪に関連した建築の多くはその姿を変えている。しかし「いまでもロンドンの人たちは五輪を開催したことを誇りに思っている」と語る。「五輪の建築は“祭りのやぐら"であり、必ずしも恒久的に残す必要はない」とも。「大会が始まって初めて五輪は完成し、建築はその一部でしかない」からだ。
 そのため、成熟社会としての五輪の姿を示せなければ東京五輪の目新しさは生まれないのではないかと懸念しているという。「デザインにおいては、何を足すかを考えるだけでなく、何を引くかを考えることが重要だ。成熟した都市においても、五輪だからと華美な建築ばかりを追い求めるのではなく“建築はここまでで良い"と一歩引いた視点を持たなければ、いままでと変わらない五輪になってしまう」とし、競技や運営を総合的に考えた議論が不可欠であると指摘する。

 (やまざき・かずや)1974年生まれ。東京都出身。芝浦工業大学建設工学修士課程修了。レーモンド建築設計事務所を経て、2001年渡英。観光ビザから500社以上の就職活動をし、英国に拠点を移す。01-03年ヘイクスアソシエイツ勤務。ロンドン市内大学の音楽堂、英国内の橋プロジェクト、住宅改修プロジェクトなどに携わる。ワイカラービジターセンターでRIBA賞入選。03-12年アライズアンドモリソンアーキテクツ勤務。キングスクロスセントパンクラス地下鉄駅の設計現場監理、ロンドン五輪後のメーンパーク活用法を考える『レガシーマスタープラン』作成、グリニッジパーク馬術競技場の現場監理などを担当。07-12年芝浦工業大学非常勤講師。ことし1月、日本に完全帰国し、東京を拠点にした新たな活動を開始した。
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