2015/04/19

【INA新建築研究所】多様化する業務に必要なのは「共通理念」 社員自ら『クレド』作成

建築設計事務所の役割が多様化し、従来の設計・監理にとどまらない業務が求められている。設計事務所の役割が変化しようとする中で、事務所の所員はどうあるべきなのか。INA新建築研究所は創立60周年に合わせて社員の行動指針となる『クレド』の作成を進める。同社らしさを明文化することで、経営戦略や理念とは異なる社員のスタイルを定義しようとする試みだ。作成の狙いと効果を聞いた。

 『クレド』とは、社員のありたい姿や働き方を明文化した行動指針だ。厳格なルールではなく、仕事を進める上で持つべき心掛けをまとめる。作成のきっかけとなったのは、2011年に社内で開かれた業務遂行の姿勢に関する議論だった。当時、同社は所員約270人という大所帯となり、相互のより一層のコミュニケーションが求められる状況となった。「経営理念だけではなく、具体的にそれを実践するための指針が必要だと感じた」と片桐裕明社長は語る。

片桐裕明社長
そこで、全社員を対象にしたアンケートを実施し、その回答から社員の感じるINA「らしさ」を集約していった。「社員の思いから高いモチベーションが生まれ、それが仕事の品質を高め、顧客の満足につながる。そんなプラスのスパイラルを生み出したかった」(片桐社長)という。

仲宏支店統括
重視したのは、社員自らが『クレド』作成に携わることだった。策定委員会のメンバーだった仲宏支店統括は、「経営理念は経営陣のものだが、社員のための理念を生み出したかった」と振り返る。会社からトップダウンで与えられるものではなく、ボトムアップで生み出すことで、社員が自分自身の指針とする必要があるからだ。そこで、14年6月に「クレド策定委員会」が発足。外部コンサルタントに株式会社フリーランチ(東京都中央区)を起用し本格的な検討を開始した。
 本店・支店、部署、職種、世代を問わず、社員にヒアリングし、それぞれの現場での経験談、クライアントからの評価、社風などを社内で共有した。策定委員会の活動や進捗状況を社員が自由に閲覧して意見を述べられる体制を整えることで、全社員が参加するかたちで「らしさ」を模索した。経営理念と『クレド』が企業の両輪になることを目指したという。仲支店統括は「たくさんの社員の思いを集約する今回の試みによって、コミュニケーションを生み出すこともできた」と語る。

若狭諭設計部主幹
委員会メンバーの若狭諭設計部主幹は、ベテラン社員から行動理念は社員自身が理解しているものだからわざわざ『クレド』を作成する意味はないとする意見があったことを明かす。しかし、「これから入社してくる次世代に諸先輩のバトンを渡すための重要なツールになる。文章にして伝えていくことで、社員の進むべき方向を示す羅針盤になる」と強調する。
 作成の最終段階では、ヒアリングで得た社員の意見を分析・集約した。片桐社長は「自分たちの願望ではなく、社内に浸透し、実践できる内容を構築する必要がある」と話す。同委員会は、ヒアリングや企業風土、これまでの歩みを踏まえ、「自由と責任」「総合力と柔軟性」「顧客第一」「社員の自発性」などの切り口で今後の軸となる『クレド』をまとめる。その成果は6月にも全社員へ一斉に発信し、新入社員研修などに活用する予定だ。
 片桐社長は、同社の60年間の歴史について、「顧客の求めるものや時代の要請に合わせて変化し続けることでこれまで生き残ってきた」と総括する。しかし、同委員会の活動により変わらない思いに気付くこともできたという。
 「クレドの作成は、INA新建築研究所とは何かを再発見する旅だった。その思いを世代を超えて共有することで、社員を心の底から支えるような指針になってもらいたい」と考えている。
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