2015/04/25

【インタビュー】「暮らす生活者の切り口を大事にしたい」 建築家・清水 公夫氏

1974年に福島県郡山市で事務所(清水公夫研究所)を開設以来、風土の感性あふれた、地域に根ざした数々の建築とまちをつくり続けてきた建築家・清水公夫氏。復興と地方創生が脚光を浴びているが、その創作姿勢は「生活者の雰囲気、におい、季節感」を醸し、地域の根っこのように不易流行だ。地域の建築家が今、何を考えるのかを聞いてみた。
--地方が長く低滞を余儀なくされてきた中で、建築家としてどう対処してきましたか

 「地域の中で長く生活していると、時代の変化や建築の潮流という大がかりな切り口より、そこで暮らす生活者の切り口を大事にしたい。無理に時代や都市の価値観に合わせようとすると、上から目線の建築となってしまう。確かにこの十数年は厳しい時代だったが、結局は生活者の雰囲気、におい、季節感のようなものにこだわりたいと思っている。それは建築論からすれば平凡かもしれないが、平凡だっていいじゃないかという気持もある。春を迎え雪が溶け出す、その何とも言えないワクワクした気持ち、四季へのメリハリ、そんな風土の感性を建築に生かせないか。建築をつくってきて、行き着いたのは、切妻屋根のような先人がつくってきた単純で合理的な形なのだ」
 「建築は“今”をつくるものだが、中山間地域での仕事をしていると、建築のみの視点ではもう通用しなくなる。だから最近は建築の本だけでなく、社会、歴史、経済、環境など他分野の本をよく読む。これから人口が減るというが、中山間地域ではそれが急速に来て、廃屋になることも想定しなければならない。今をつくるのではなく、10年先、20年先を見て、それに耐えるものを提案していかなければならない。そうであれば建築はこうだという決めつけでなく、もっと多様で複合的な、変化に対応できるものでなければならない。今ではなく、未来にどう対応するかが問われている」

--昨年9月、公募プロポーザルで最優秀を射止めた会津美里町の庁舎・複合文化施設の設計ポイントは

 「まず考えたのは、豪雪地帯で除雪に苦労している土地柄なので雪をどうするかということ。建物平面は長方形、切妻屋根とし、効率的に落雪するようにした。ごくシンプルだが、それが除雪に最も適している。役場と公民館の複合施設だから、会議室やイベント室、サークル室などが共有される。東西に長い平面構成を生かし、多様な空間が連続するモールをつくり、人の交流を導き、賑わいが生まれるようにした。もう1つは、地元産の木材を屋根架構材、室内仕上材、家具建具に取り込んで地産地消に寄与した。外壁はレンガ積、床高を1.5mとし、雪に配慮している」
 「周りは田園に囲まれた施設だけがある。遠く飯豊山や磐梯山が眺望できる。周囲の自然に溶け込み、人々が訪れた時、ふと山々を見上げてほっとする。そんな気づきをもたらす建築を考えた。だから、建物の4面全体をしっかりしたつくり込みをしている。ぼくは、ファサードから建築を考えない。それは表裏をつくることになる」

--今回もうまく取り込んでいる木造への考えは

 「現在、エコロジーなどの観点から木造が見直されているが、もう20年前から学校建築などに木造を取り込んできた。それは、子どもが木に親しむということもあるが、地域性というか風土というか、建築家としての志向があった。木はそれ自体人に安らぎを感じさせ、また保温、断熱の性能が高い。耐久性のあるRC造と木造との複合建築は、建築規制も複雑でクリアする手続きも大変だが、これからの地域の建築の可能性を示していると思う」

--これからの地方は?

 「東北地方では、復興でしばらくは建築需要も旺盛な時が続くだろうが、2、3年後に建築の仕事がまた減少した時が正念場だろう。地方のまちづくりで言えば、いま外国観光客が増大しているが、彼らが地方の何に魅力を感じているかは、世界に発信できるまちづくりのヒントになるかも知れない。とにかく、どこもかしこも同じ地方ができることには強い危機感を持っている。建築も同じで、場所性のある、固有の、そこで暮らす人がほっとするものでありたい」

◆横顔
 建築の自己主張やひとりよがりを嫌う建築家である。気づきの建築とよく言う。数多くの作品群は福島県の中山間の風景にやわらかく見事に拮抗して建つ。いまも手書きで図面を描き、描くことでディテールを刻み、指先から建築の隅々を頭に入れていく。第1回公共建築賞優秀賞を始め賞を総なめした初期の傑作・磐梯町中央公民館(1983年)からその作風は一貫している。それは地域、人々、風土が変わらないからだ。現在は会津美里庁舎・複合文化施設、福島県中央家畜保険衛生所(大玉村)の設計に力をそそぐ。最近の関心は人類史、その教訓「人間、ワイルドたれ」。日大理工学部建築科卒。1941年生まれ。
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