2015/04/05

【三菱地所設計】求められたのは「公共性」 台湾初プロジェクト「南紡夢時代」

三菱地所設計が初めて台湾で設計を手掛けたプロジェクト「南紡夢時代」が2月に開業した。延床面積約18万㎡を超える大型複合施設として、台湾では大きな話題を集めた。日本の建築設計事務所が海外で戦う上で武器となる技術とはなにか。設計担当者に聞いた。 

「南紡夢時代」は紡績会社「台南紡織」の工場跡地を活用した大型複合施設で、オフィス、ホテル、ショッピングモール、映画館などの機能で構成する。台湾最大規模の複合施設であり、2011年に開かれた国際コンペには三菱地所設計を含む各国の建築設計事務所が参加した。

陰影で布のイメージを表現
意匠設計では「台南紡織」がこれまでに積み重ねてきた歴史を踏まえ、繊維や織物をモチーフにデザインコンセプトを構築した。それぞれの用途が折り重なる建物構成として内外の有機的なつながりや上下階の視線のつながりを持たせた。表面には凹凸を設けて建物の陰影を際立たせ、揺らめく布のイメージを表現した。
 公共性を重視し、周囲には自由に利用できる公園を整備した。2月11日の開業セレモニーでは台南市長ほか、政府関係者を含む約1000人が出席し、台南市民の関心の高さをうかがわせた。

◆都市開発のノウハウが評価される
 約3万㎡という広大な敷地を対象とする大規模な開発ということもあり、コンペにおいて求められたのは建築の設計から都市計画に至る提案だったと山本幸男建築設計四部部長は振り返る。

南紡夢時代を語る山本幸男氏と富士貴彰氏(左)
今回の複合施設は3期に及ぶ開発計画の第1期計画に位置付けており、今後は住宅、ホテル、新たな商業施設の建設などが想定されている。そのため、設計者選定に際しては「公共性を加味したマスタープランが構築できる体制が求められており、丸の内の大規模な再開発に代表される都市開発とプランニングのノウハウが高い評価を受けた」という。
 設計を担当した藤貴彰建築設計五部海外プロジェクト室デジタルデザイン室副主事は、台湾の関係者の「本物志向」に驚かされたと語る。日本の多くのショッピングモールでは安価なALCパネルを使用するが、「南紡夢時代」ではアルミパネルで全体を覆った。「価格よりも、本物の素材が持つ魅力や耐久性を重視していた」という。

マスタープランを通じ公園整備にも携わった
施主側が細部への強いこだわりを持っていたため、設計の初期段階から具体的なイメージの提示が求められ、基本設計の時点から素材や機能、デザインの詳細について検討を重ねた。「日本人ならば、きめ細かなマテリアルへの配慮と機能性、美しさをつなげられるという期待があったと思う」と藤氏。

◆海外で生きる設計者の「絵を描く」技術

 建築生産の文化が異なる施主や施工者とのやり取りに際しては、設計者の強みである「絵を描く」技術の重要性を意識したと山下氏は語る。「日本語ですら建築の用語を伝えることが難しいのに、海外ではなおさら設計意図を伝えることが難しくなる」とし、「言葉では伝え切れない設計意図が、具体的な質感を絵で示すことで無駄なく伝わる。ビジュアルで示すことが、結果的にロスの少ない設計になると改めて実感した」という。
 今回のプロジェクトでは建築設計に加えて「南紡夢時代」のロゴデザインも三菱地所設計が担当した。「卵」「紡ぐ」「五大元素」といった要素を融合させたデザインを提案し、採用された。藤氏は、「建築設計事務所がデザインを通じてブランディングに貢献することもできる」と指摘する。
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