2016/04/21

【インタビュー】地勢に寄り添い住む「斜面の作法」追求 大阪建築コン渡辺節賞の畑友洋さん


 「集まって住むには理性が必要。今後、斜面地に建築が建つ際のモデルになればという思いでつくった」。大阪府建築士会が主催する第60回大阪建築コンクールにおいて、「元斜面の家」で渡辺節賞を受賞した。「住宅1件だが、日本の大部分を占める斜面地に住むということ、集まって住むということの作法を考えたプロジェクトだった。小さな作品でもこういった評価をいただき大変うれしい」と喜びの言葉を述べる。

 「元斜面の家」は六甲山の裾(神戸市中央区諏訪山町)を敷地とする。「約45度の急斜面地で、キャンチレバーで張り出したRC基礎の上に小さな古民家が建っていた。これ以上自然を壊したくないという思いからRC基礎もこの敷地の自然の姿ととらえて、撤去せずに活用することにした」と話す。
 このプロジェクトで追求したのは「斜面地に住宅が集まって建つ時の作法」。斜面地では通常、建築面積を稼ぐためにできるだけ前に張り出すことになるのだが、これではさまざまな理由からあまり前に出せなかった住宅の自然環境条件を著しく悪化させてしまう。
 「周囲に悪影響を与えない健全な住み方を考えた結果、元の地勢に寄り添う形状が理にかなっていると判断した」というように、「元斜面の家」は斜面に沿って階段状にワンルームの空間が広がっている。前の住宅から引き継いだ基礎は最下部に位置し、テラスとして活用している。

「元斜面の家」(撮影:矢野紀行)

 この場所は六甲おろしという吹き降ろしの風を猛烈に受けるのだが、斜面に沿って設けた屋根で流しつつ、少しだけ内部に取り入れることで、夏でも快適な環境を保つ仕組みとしている。「自然に寄り添うことに真摯(しんし)に取り組んだ結果であり、斜面の作法としてうまくいった」と話す。
 クライアントは斜面地の住宅で育った。自然の中を駆け回る楽しさを、子どもたちにも知ってほしいとの思いから建築を依頼した。「完成後、『とにかく毎日が楽しい』という最大の褒め言葉をいただいた。このプロジェクトでは、敷地と向き合い、地勢を読んで建築をつくることの大切さを改めて実感した。周囲をも巻き込む真の豊かさを追求し続けるのは現代の建築家の使命である。今回の受賞・激励を糧にこれからも建築を通じて現代社会を考えていきたい」

 (はた・ともひろ)2003年京大大学院工学研究科修了。高松伸建築設計事務所を経て、05年畑友洋建築設計事務所設立。08年六甲山トンネル南口再整備デザインコンペ最優秀賞、11年JIA近畿関西建築家新人賞、15年第3回京都建築賞優秀賞、16年大阪府建築士会大阪建築コンクール渡辺節賞を受賞。京都大、近畿大、神戸芸術工科大、摂南大で非常勤講師も務める。兵庫県出身、37歳。
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