2015/04/20

【山下PMC】保有する施設建築の利活用とは? 最新の「CRE戦略」 2020以降の建設学

CRE戦略という言葉が世の中に登場して、早10年以上が過ぎた。2000年代に入って、証券化制度が解禁されプロジェクト・ファイナンスによる事業手法が国内にも大量に出現したのがことの発端だ。この事業手法を、企業の側からも有効に活用する方法はないものかと、CRE戦略は産声を上げた。

 CRE戦略! 読者の皆さんなら先刻承知のことと思うが、Corporate Real Estate、すなわち企業が保有(または利用)するすべての不動産を有効に利活用して、経営自体を向上させる手法のことである。当初は、企業自らの資産を証券化した後に、賃借で事業を継続するようなオフバランス戦略、あるいは遊休資産の有効活用などが主流であった。だが現在はその様相が大きく違っている。理由は2つある。
 1つは、IFRS(国際会計基準)にならう形で会計制度が変化したことである。減損会計やリースの資産算入が制度化され、圧倒的効果をもたらしていたオフバランス戦略などの旨みがわずかになってしまったのである。
 もうひとつは、遊休不動産や賃貸不動産など企業にとっては脇役的な対象から、コア事業そのものをつかさどる主役的資産にその主戦場が移ってしまったことだ。今やパラダイムの変化によって企業の存亡が問われるような時代だ。スマホやテレビにみられる家電メーカーの攻防をみれば、その傾向は顕著である。だから次世代を生き抜くコア事業に向けて施設資産全体をどのように再編成していくか、企業は真剣に取り組んでいるのである。
 したがってコア事業を担う施設を中心に据えて資産のポートフォリオ(全体一覧)化を図り、施設運用とそれに伴う財務をより強固に緊結させていく経営管理手法が最新のCRE戦略ということになる。そして、ROA(総資産利益率=利益/総資産)の向上、すなわち利益を上げて資産を効率化させたり縮小化させたりする施策を一体的に行うのである。さらに、この1年間で整備されたコーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)とスチュワードシップ・コード(機関投資家行動指針)が後押しとなり、CRE戦略は財務諸表上での「見える化」が進み、企業経営の根幹となってより活発化することだろう。
 企業を人間に例えるなら、CREは人体そのものとみなすことができる。全身くまなく活用できてこそ健全な状態が維持されることぐらい誰だって理解できる。もし、この体で厳しい競技に臨み優秀な成績を上げたいのなら、いつも全身を鍛え上げストレッチを欠かさない状態にしておかなければならない。そして、その競技が「企業の生き残り競争」というのであればなおさらだ。
 その鍛え上げた体で、利益獲得と事業存続という生き残りの糧を勝ち取っていく。少し過激な表現かもしれないが、これが現実を投影した姿だろう。このうちの「全身を鍛え上げストレッチを欠かさない」という部分がCRE戦略そのものだと言える。併せて優秀な成績(利益)を上げるという成果を達成することこそ、その真意なのである。
 このようなCRE戦略の考え方は公共機関を触発し、少し遅れてPRE(公共不動産)戦略という形となって現れた。そしてPRE(Public Real  Estate)には、CREとは比較にならないほど深刻な課題が立ちはだかっている。これからの人口減・税収減・少子高齢化を考えると、すべてのPREの再投資など望むべくもない。減築や売却、除却も数多く伴うことだろう。それでもまだ解決には至らない。やはりCREと同様に、ROA向上に準じた考え方を導入せざるを得ないと思われる。民間活用を促して「利益を上げる」側の施策を積極的に行うことである。最終的に全体収支がプラスマイナス0になれば国民は納得するはずだ。自治体が、自らの努力によって独立してもおかしくないくらいの経済圏を形成していくことを求められる日が必ずやってくる。
 今後は行政・公務員の方々も、企業の「コーポレートガバナンス・コード」にあたるような、意識を覚醒させる発想と指針によってPRE戦略に本気で向き合う必要性に迫られるだろう。
 はたして私たち建設業界は、この難題にしっかり応えていけるだろうか(!?)
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