2016/04/17

【インタビュー】変わる「夜の時間」に可能性 照明デザインの道のりと未来を石井幹子氏に聞く


 日本の照明デザイナーの草分けとして数々の建築の照明に携わってきた石井幹子氏。直近でもドイツ・フランクフルトで開催された「Light+Building(L+B)2016」で日本企業3社をプロデュースするなど世界を舞台に活動する。一方で、善光寺(長野市)のライトアップといった地域振興や創エネあかりパークなど、専門家の立場から環境問題にも取り組む。第一人者として歩んできた道のりと照明の未来について聞いた。

--照明デザインについて
 「地球の半分は夜にもかかわらず、建設業界は昼のことだけを考えてきた。グローバル化が進むことで夜に活動する時間が増え、照明がなければ仕事はできない」
 「その中で、20世紀後半から21世紀にかけて照明に対する考えが変わった。昼は明るく、夕方、夜とだんだん照度を落としていく照明環境が評価されている。人間も生き物だ。人に優しい質の良い照明をデザインする必要がある」

レインボーブリッジ

--現在の照明技術は
 「照明の技術は日進月歩で質が良くなり、バリエーションも増えている。LED(発光ダイオード)が照明として実用可能になり、省エネ性や細かい配光調整など照明デザインの幅も大きく広がった」
 「例えば歌舞伎座では、LED照明を使い、冬は暖白色、春と秋は温白色、夏は純白色と、3種類の光で照らしている。毎日、明かりの色を変化させ、照射位置も数cmから数mm単位調節できる。しかも1日当たりの電気代はわずか180円ほどだ」

--日本の照明への評価は
 「世界最大の照明・建築技術の見本市であるL+Bで住友化学、スタンレー電気、岩崎電気の日本企業3社のプロデュースとデザインを行った。会期中3万人以上の来場者があり、3社のブースは過去に例を見ない大盛況だった」
 「L+Bを通じて、デザインとPRの重要性を再認識した。光は目に訴えるモノだ。デザインで求心しなければ優れた技術も認知されない。デザインと技術は車の両輪と言える」
 「欧米などの先進国で普及させるためには、デザインやPRの仕方を工夫すべきだ。ヨーロッパでは、『ZEN Style(禅スタイル)』という、和風モダンが流行している。照明に関しても、欧米の様式に和風のスタイルを取り入れることで広く受け入れられると思う。新興国では機能をシンプルにすることで、質をそのままにコストを下げて展開することが得策だ」

浅草寺
--観光資源としての照明について
 「夜景を観光資源として活用する動きは以前に比べてかなり広まっている。大きな理由は、夜景を見るためにはその土地に泊まる必要性があるということ。泊まれば宿代はもちろん、食事代、お土産代などを宿泊地で使うことになる。通過する場合に比べ11倍の経済効果があるという試算も出ている」
 「しかし、ライトアップするだけでは人は来ない。ソフト面と住民の意識が重要だ。ソフト面とは、お祭りや伝統芸能、地酒など地域の観光資源のことで、そこが地域振興の伸びしろとなる。地域それぞれが独自の文化を持っている日本は、まさに“ミラクルランド”であり、まだまだ伸びしろがある」

東京タワー ダイヤモンドヴェール
--環境への取り組みは
 「11年の東日本大震災をきっかけに、照明デザイナーとして何ができるかを考え、創エネあかりパークの取り組みを始めた。創エネ・省エネ・再エネ技術とデザインを組み合わせた光の大イベントで、15年は約15万人が来場した」
 「照明は目に見え、発電の効果が分かりやすいので、子どもでも理解できる。子どもは吸収が早く、将来を担う存在なので、ぜひ来場して、創エネの取り組みを体感してもらいたい」

--次世代へのメッセージを
 「若い人には、光に関心を持って良い照明を見てほしい。いろいろな照明を見ることで、自分なりの物差しができてくる。まだ残っている街の“汚い”明かりを消して、一緒に“美しい”明かりをどんどん増やしていきたい」

■横 顔
父・竹之内悌三は、1936年のベルリン五輪にサッカー日本代表の主将として出場。当時優勝候補だったスウェーデンを破り、「ベルリンの奇跡」と呼ばれる伝説的な試合の立役者となった。75年後、くしくも同じベルリンで石井幹子氏と娘の石井リーサ明理氏が、日独交流150周年記念事業としてブランデンブルク門のライトアップを手掛けた。親子3代、平和を願い世界を照らす。東京都出身、77歳。
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