2016/11/03

【アドバンスドナレッジ研】風や温熱を体感! 日建設計と共同でシミュレーションの解析結果をVRに


 環境シミュレーションソフト『FlowDesigner(フローデザイナー)』を提供するアドバンスドナレッジ研究所(東京都千代田区、池島薫代表取締役)が日建設計と共同で、気流や温熱など環境シミュレーションの解析結果を仮想現実で体験するVR(バーチャル・リアリティー)機能を開発した。2016年が“VR元年”に位置付けられ、建設業界も実務での利活用を探る中、いち早く設計プロセスに落とし込むことを可能にした。10月31日にリリースする最新FlowDesignerにVR機能を搭載する。

 環境建築の需要が増す中で、意匠、構造、設備など異なる分野の設計者が環境に対する共通認識を持ち、計画を進める重要性が高まっている。目に見えない風の流れや温度をビジュアル化するフローデザイナーに仮想空間内の体験機能を加えることで、専門家以外には理解が難しい熱流体シミュレーション解析を誰もが直感的に把握し、コミュニケーションを促すことを目指した。
 池島社長は「これまで建築設計と環境設計は切り離されていた。VRを活用すれば意匠設計者らが気流や温熱環境を簡単に理解し、デザインや開口部の変更など設計に反映しやすくなる。BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)が志向するフロントローディングの効果を発揮する」と力を込める。
 開発したVRのテーマは「楽しく」と「分かりやすく」。ヘッドマウントディスプレーを装着すると、BIMモデルなどで作成した3次元空間内に解析モデルが立体映像として表示され、体の動きや顔の向きにあわせて映像も動く。VRの世界に入り込み、あたかもその場にいるような感覚で気流や温熱を体験できる。

VR内に表示される腕やタッチパネルで操作する

 VR空間に自分の手を映し出し、各種操作を行うことができるのも特徴だ。握った右手を差し出すと視線の方向に前進し、開くと停止する。手からレーザーを照射して移動したい場所に当て瞬間移動することや、地図を表示して指定した場所に移動することもできる。また、タッチパネル式のメニューボタンを空間内に表示し、各種コマンドを人差し指で押して操作する。
 10月20日に開いた体験説明会では、東京・水道橋にある日建設計東京ビルの3次元モデルを作成し都市街区とオフィスの環境シミュレーションを行った。
 都市街区では、同ビル周辺の「ビル風」シミュレーションを実施した。ゼンリンが市販している「3D都市モデルデータ」を用いてビル周辺の実際の都市環境を構築し、夏季卓越風の南西風を再現。気流を表す無数のベクトル(矢印)を都市に流し、ビル風の軌道や速度を表現した。地上やビルの上部など任意の場所で気流を体感できるほか、自分の立っている位置から風の流れに乗ってモデル内を移動する機能も設けている。
 オフィス空間では、ビル13階に建築と設備のBIMデータをインポートし、スリット空調による温熱環境をシミュレーションした。オフィス内の温度分布を色分けして表現するとともに、その中の空気の流れも再現。空調から吹き出した空気がどのように移動したかを把握できるようにした。

ヘッドマウントディスプレーでVRに入り込む

 日建設計の吉田哲設計部門3Dセンター室長兼DDL室長は「本来、風や温熱の影響がどう出るかは竣工後にわかるもの。そのため適切な環境を構築するには設計段階でのシミュレーションが重要になる」と開発の背景を説明する。照明など「光」に関するシミュレーション技術が進んでいるが「風や温熱に関しては遅れていた。今回開発したVR機能は専門知識のない設計者やクライアントが建物を建てる前にリアルに風・温熱環境を理解し、設計を効率化するための一歩になる」と手応えを語る。
 現在、VR内を歩きまわることができるのは1人に限られているが、複数人が同時に参加しコミュニケーションを高めるシステムの構築など今後もさらなる技術開発を進める。
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